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ヒッチハイク紀行文⑯ 難波〜吹田SA

4月1日、5日目、晴れ。

朝6時、宮城さんのアラームで起きた。
新年度で仕事が立て込んでおり、7時には家を出たいらしく、かなり早い起床となった。
教師は忙しい。
洗濯物をリュックに詰めて宮城さんを待つ。

「今日から新年度かぁ〜。憂鬱やわ〜」

宮城さんはナーバスだった。
子どもが登校してくるまでまだ1週間ほど猶予はあるみたいだが、クラスが発表されたり、新年度以降の準備をしたりと、これからバタバタみたいだ。
次に担当するクラスは、先生にも年度が変わるまで通知されないらしい。
だから今日からが勝負だと言う。

「よし、行くか」

宮城さんとは、アパートを出てすぐに別れた。
東京に来た際は最大限のもてなしをすることを約束し、アツい握手を交わした。
ちょっと肌寒いが、清々しい朝だった。

✳︎

タカさんとの待ち合わせ時刻まで時間がある。
僕は例によってマックで時間を潰すことにした。
その後「黒門市場」を少しぶらつき、タカさんが宿泊している東横インへと向かった。
タカさんはホテルの入り口横の、障害者用の駐車スペースで車を磨いていた。

「おはようございます!」

「おう」

「代わりますよ」

「頼むわ」

お世話になった分、しっかり磨く。

「途中にサービスエリアはありそうなの?」

「ありそうです。福井に行くんですよね?」

「うん、そうそう。途中にあるか?」

「ちょっと戻っちゃうんですけど、吹田サービスエリアって言うのがあって」

「ナビできる?」

「できます」

「おう、じゃあ乗れ」

幸先の良いスタートだった。

「昨日は何か食べたの?」

「お好み焼きを食べました」

「あ、そう」

「タカさんは?」

「俺は疲れちゃって帰ったらすぐ寝ちゃったよ」

「そうなんですね」

「で?どこから高速乗るの?」

「ここ真っ直ぐ行ったところです」

「そうか」

「あ、そこ左です」

「ここか?」

「いや、違います!」

「え?」

「ああ!通り過ぎました!」

「チキショー、Uターンしよう」

「めちゃめちゃ入り組んでますね。そこ右折ですか?」

「いや、戻るならもう1本先だろう」

「あ、はい」

しばらく行くと、またさっきの高速への入り口へとたどり着いた。

「ここを、こういうことだな」

無事高速に乗ることができた。

「どのくらい走るの?」

「20分くらいですかね?」

「そうか」

「タカさんはこの後福井でどうするんですか?」

「決めてない。適当に飲み屋探すよ」

「いいっすね。新潟にも寄るんですか?」

「どうすっかなぁ。行ったらババアに金取られるからな。ガハハ」

「泊めてもらえば宿代かからないじゃないですか」

「いや、結局金貸せって言われて、そっちの方が高くつくよ」

「あはは。大変っすね。あ、多分そこで高速下ります!」

「え?ここ?」

「はい!」

「下りるぞ」

「あれ?あ、違う!ここじゃなかったです!」

「なんだよ!もう下りちゃったぞ!」

「すんません!」

「おいおい、しっかりナビしてくれよ。また高速乗るのだって金かかるんだぞ」

「いや、マジすんません」

「どうすっかな。これ戻れんのか?」

高速道路を下りる場所を間違えた。めちゃくちゃ気まずい。
タカさんはしばらく走り、再び高速道路に乗ってくれた。
2日間一緒にいると、距離感が縮まって会話が雑になる。車内と言う密閉空間で長時間2人きりと言う環境は、相対して会話するよりも心の壁が取り払われるのかもしれない。
高速を15分ぐらい走ると、吹田SAが見えてきた。

「ここか」

「はい」

吹田SAに着いた。
こっちは上り方面なので、徒歩で下り方面まで向かう必要がある。
上りから下りへの移動は初日の港北PA以来となる。

「お、あれヒッチハイクじゃねぇか」

「本当だ。大学生ですかね」

「東京方面か。方向一緒だったら乗せてってやったんだけどな。ガハハ!」

僕はヒッチハイク仲間を見つけたのが嬉しくなり、彼に話しかけてみることにした。

「ちょっと行ってきます」

「おう」

その子は二十歳前後だろうか。ノースフェイスのウインドブレーカーにマスク、リュックサックと、身につけているものが全て黒ずくめな彼は、「東京方面」のスケッチブックを掲げていた。
かなり達筆だ。見習いたい。

「ヒッチハイク?」

「あ、はい。そうです」

今まで散々話しかけられる側だったから第一声のチョイスに悩んだが、口から出てきたのは平凡なセリフだった。

「どのくらいやってるの?」

「今、大体20分くらいですかね」

「そっかそっか。僕もさ、ヒッチハイクで東京からここまで来たんだよね」

「あ、そうなんですか」

「うん。大学生?」

「そうです。今春休みで」

「ああ、なるほど。なんでヒッチハイクしてるの?」

僕自身がよく聞かれる質問だが、やはり聞き手に回るとこの質問が勝手に出てくる。

「いや、なんとなく。僕、前に一回やったことあるるんですよ。でもその時上手くいかなくて。ずっとモヤモヤしてたので、ちょうど春休みだし、リベンジしてみようってことで」

「へぇ、良いじゃん。あのさ、僕この旅で出逢った人にノートに一言書いてもらってて、会ったばっかりで申し訳ないんだけど、一言書いてもらえたりしない?」

「あ、良いですよ」

「ありがとう!君は、夢とかある?」

「夢ですか?」

「うん。夢を書いてほしいんだけど」

「うーん......わかりました!」

彼は一瞬考えて、こう書いてくれた。

『海外とつながれる仕事に就く!』

一言の下に、大学名と名前まで書いてくれた。
近畿大学らしい。律儀な子だった。

「はい」

「ありがとね」

「いえいえ。お兄さんはどこまで行くんですか?」

「僕は鹿児島まで」

「へぇ!じゃあ逆方向ですね」

「そうだね。いやぁ、頑張ってね」

僕は彼と握手を交わした。
今まで散々色々な人にお世話になったので、僕も心の底から彼を応援したくなった。

「ありがとうございます!」

「じゃあ、また」

彼と別れ、タカさんの元へ戻る。

「戻りました」

「おう」

「福井までですよね。お気を付けて」

「うん。長旅になるからゆっくり行くわ」

「それが良いですね。じゃあ、タカさん。もう行きます」

「おう。頑張ってな」

「はい!また、横浜で」

「うん。連絡して」

固い握手を交わして、タカさんと別れた。

✳︎

さて、まずは下り方面へ移動しなければ。
遠目でさっきの大学生を見てみる。
僕のように、トイレの前で一人一人声をかけるやり方ではなく、出発する車に向かってスケッチブックを掲げるやり方だった。
アレでは難しいんじゃないかと思いながらも、とりあえず昼飯を食べることにする。
なんとなく、下り方面に着いてから昼飯を食べると目立つ気がしたので、上り方面で食べてから移動することにした。
ここでもコンビニでカップラーメンを買い、飲食スペースで食べる。
時刻は11時半。
食べ終わり、移動しようと再び外へ出ると、彼の姿はもう無かった。
30分も経ってないが、成功したのだろうか。
僕も頑張らなければ。
下り方面に移動し、「神戸」と「姫路」の2つの行き先を書いたスケッチブックを掲げる。
もし神戸に行く人がいれば、そのまま明石海峡大橋を渡り徳島に行けるし、姫路まで行ければ、また更に進んで岡山から香川に入れると思ったからだ。
さぁ、今日はどこまで行けるだろう。

「こんにちは!」

僕は笑顔でヒッチハイクを開始した。

続く。

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