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ヒッチハイク紀行文⑩名古屋

夜19時。
トイレを済ませ、夜の名古屋を散策する。
来るのは初めてだったので、とりあえず歩いて街の様子を伺った。
スタバにマック、カラ館にドンキ。
どこもチェーン店がひしめきあっている。
まるで東京だった。
これからのことを考えたくて、どこか座れる場所を探した。
こう言う時はマックがいい。
カフェラテを注文し、窓際の席に座る。
隣では金髪の若い女の人が寝ていた。
店内もかなり混んでいる。
なんだか落ち着かなかった。
僕はひとまず今日の宿を探した。
安いゲストハウスはすぐに見つかった。
漫画喫茶も腐るほどある。
しかし、何か物足りない。
これだけ栄えた街にきて、普通に夕飯を食べて普通に宿に泊まる。これではただの観光ではないか。
お金さえあればなんとかなる。
そんな旅で本当に良いのだろうか。
考えた末に出した結論は野宿だった。
名古屋の大都会の公園で野宿をする。
うん、非日常だ。
明日の朝方の天気が怪しかったが、早起きすれば雨にあたらずに住むだろう。
宿は決まった。
さて、あとは夜の名古屋を散策だ。

✳︎

時刻は20時。
とりあえず、リナちゃんにおすすめされた大須商店街に行ってみることにした。
リナちゃんの話によると、その辺に行けば変な人たちと交流できて、あわよくばじゆうちょうに書いてくれる人と出会えるかもしれないとのことだ。
一口に大須商店街と言っても、一本の通りだけではないらしい。長い通りが何本かあるみたいだ。
僕は入り口付近で、既に引き返そうかと言う気になっていた。
時間が遅いせいか、全然人のいる気配がない。
とりあえず歩いてみたが、店はほぼ閉まっていて、出会いどころではなかった。
酔っ払いのおじさんからじゆうちょうに一言もらいたかったが、これでは期待できないだろう。
僕は早々に諦めて大須商店街を後にした。

✳︎

僕は再び栄付近に戻ることにした。
栄エリアは飲み屋街となっており、どこかの飲み屋に入れば名古屋の人たちと交流できると考えたからだ。
途中、道行く人に声をかけられた。

「ちょっと、落ちましたよ!」

チャラそうな2人組の男性が、落ちた銀マットを拾ってくれたようだ。これがないと野宿ができなくなる。とても助かった。
時刻は21時、いい時間だ。
僕は適当な立ち飲み屋に入った。

「いらっしゃい!!!」

とても元気な声で、若いお姉さんが出迎えてくれた。

「あ、お兄さん、さっきもここ通ったでしょ。目立つから覚えてるよ」

「あ、はい。通りました」

なんだか恥ずかしかった。

「ここで味噌カツは食べられますか?」

「ああ......ここは焼きとん屋だから無いんですよ。お兄さん、観光ですよね?名古屋名物食べたい感じですか?」

「はい、そうなんですよ」

「なるほど。まぁ、うちのは名物ってわけじゃないけど、焼きとん美味いから是非食べていってほしいですねぇ」

「そうですか。そしたら20分後にまた来ます」

「わかりました!20分後ですね!お待ちしてます!」

僕はその場を後にし、味噌カツを求めて歩き出した。別に味噌カツさえ食べられればいい。さっきここに来る途中、1本からテイクアウトできるお店を見かけた。そこで1本だけ食べて、さっきの店に戻ろう。
栄エリアは入り組んでいて若干道に迷ったが、無事目当ての店に辿り着いた。
そこで1本だけテイクアウトする。
値段は200円だった。
何故か10分ほど待たされたが、キャベツやカラシか付いていて、食べ応えがあった。
味も美味しい。満足だ。

✳︎

僕はさっきの店に戻った。

「お!お兄さん、戻って来た!入って入って......いらっしゃいませどうぞ!」

「「いらっしゃいませどうぞ!!」」

お客も含めて、店内にいる全員の視線が僕に集まった。
すごいテンションだ。
だが悪い気はしなかった。
僕は案内されたカウンターでメニューを開いた。
立ち飲み屋なので、客との距離がかなり近い。

「お兄さん、何飲みます?」

さっきのお姉さんだ。
とりあえず、レモンサワーを頼んだ。
昼のラーメンが効いていてあまりお腹が空いていなかったので、食事はおでんだけにした。

「お兄さんは旅してるの?」

「そうです。ヒッチハイクで名古屋まで来ました」

「へぇすごい!どこからですか?」

「東京です」

「へぇー!東京から!大変そう」

「ヒッチハイクすごいですね!」

お姉さんと喋ってると、隣のお客も話しかけてきた。
お姉さんが周りを巻き込むようなリアクションを取ってくれていたので、そのお客も話題に入りやすかったのだ。
年は30前後だろうか。
優しそうな男性だった

「そうです、ヒッチハイクで名古屋まで来ました」

「へぇ。すごいなぁ」

「あなたは名古屋の人ですか?」

「いや、僕は岐阜県から来てます」

「あ、そうなんですか!観光ですか?」

「いやいや、ちょっと、ライブに」

「へぇ。じゃあ1泊するんですか?」

「いや、普通に電車で帰りますよ。近いんで。こっから岐阜は」

「あ、そうなんですか。知らなかった」

岐阜は近いのか。
明日電車で行ってみるのもありかもしれない。
岐阜は行ったことがなかったので一度行ってみたい。

「お待たせしました!」

レモンサワーが来た。
そのちょっと後におでんも来た。
中々の提供スピードだ。

「週末はよく来るんです。名古屋でライブみて、ここで呑んで帰る。最高ですよ」

「へぇ!なんのライブなんですか?」

「......地下アイドルです」

「へぇ、なんてアイドルなんですか?」

「いや、絶対知らないですよ」

グループ名を教えてくれたが、知らない名前だった。

「地下アイドルは熱量がすごいから、ライブがすごく楽しいんです。ハマったらもう抜け出せなくなります」

「いいですね。何回か映像とかで見たことあるけど、すごいですよね、エネルギー」

「はい!お客さんと一緒に作っていく感じなんで、一体感があるんですよ」

その人は、地下アイドルの魅力を色々と教えてくれた。

「この店はチェーン店でね、東京にもあるんじゃないかな。そうだよね、ラミーさん?」

「そうですね!東京だと蒲田にありますよ!」

目の前で焼きとんを焼いていた店員が答えた。
それぞれあだ名があるらしい。

「こういうのもやってるんで、よかったら」

複数店舗に訪れると特典がもらえると言うキャンペーンのチラシをもらった。

「へえー。お兄さんはもう常連さんなの?」

「そうですね、毎週のように来てるかな。店員さんがみんな良い人で」

「確かに、フレンドリーですよね」

「ほら、スタンプも結構貯まってて」

「へぇすごい」

おでんとレモンサワーだけでも1000円しない。
確かに毎週ふらっと来て軽く呑んでも、全然財布の負担にはならなそうだ。

「機会があれば東京の店舗も行ってみます」

「うん、是非!」

「話は変わっちゃうんですけど、僕、旅で出会った人にメッセージ書いてもらってて。よかったら書いてくれませんか?」

「へぇ!すごいね。どんなメッセージ?」

彼にじゆうちょうを見せてみた。

「すごい!女子にも乗せてもらったんだ」

「そうなんです。出会えた人との記念に書いてもらってて」

「何を書けばいいの?」

「夢とか、今の気持ちとか、今後の決意とか?」

「夢かぁ。特にないんだけどなぁ」

「なんでも良いですよ」

「うーん、そうだなぁ」

そのお兄さんはじゆうちょうに、こう書いてくれた。

「出会えて良かったよ!今日はありがとう!ヒッチハイク頑張ってください!ファイヤー!あぼかど」

どうやらその人はあぼかどさんと言うらしい。
優しい応援メッセージを頂いた。

「じゃあ、僕はそろそろ終電逃しちゃうから行くね!ヒッチハイク頑張って!」

「はい!ありがとうございます!」

彼と別れ、おでんを平らげて、僕も店を出た。
店を出てから、焼きとんを食べていないことに気が付いた。
心の中でお姉さんに謝った。

✳︎

時刻は22時半。
さて、寝床を探そう。
とは言え、マックにいた際に大体の目星はつけていた。名古屋市科学館や木下サーカスのテントがある白川公園だ。
Googleマップで見た感じ、かなり大きい公園だった。
ざっと公園内を歩いたが、ランニングする人やダンスの練習をする人、友達と喋る人など、この時間でもまだ人はいた。
僕は人気のない場所を求めて歩いた。
トイレや水道が近くにある芝生のスポットがあったので、そこで寝ることにした。
テント用の床シートと銀マットを敷いて、その上に寝袋と空気で膨らませるタイプの枕を設置する。
たまに人が通るようだが、気にしないことにする。
明日のヒッチハイクポイントを少し調べ、アラームを5時半にセットし、23時半、就寝した。

✳︎

3日目に使用した金額、1560円。
宿代が浮くとだいぶ安い。
それにしても、今朝はまだ静岡にいたのだ。
今こうして名古屋の公園で寝ているのが信じられない。
僕は充実感を噛み締めながら目を閉じた。

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