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ヒッチハイク紀行文②〜三軒茶屋

3月28日、初日、天気は曇り。
朝8時には起きるつもりが、結局10時まで寝てしまった。
そこからダラダラとヒッチハイクのコツを調べたり、持っていく荷物を微調整している間に12時を過ぎ、昨日の夕飯の鍋や母親の誕生日ケーキの残りを食べたりしている間に13時を過ぎた。
その辺りで焦ってきた。
僕は何をしているんだ。
予定では10時までには三軒茶屋に到着し、2、3時間ヒッチハイクを頑張って今日の夜には福島に行き、親戚の家に泊まる予定ではなかったのか(アポはまだ取っていなかったが)。

このままでは良くない。
さっさと着替えて出発しよう。
そう思ったタイミングでインターホンがなった。
誰だこんな時に。
玄関のドアを開けると、大きい段ボールを持った配達員がいた。
どうやら荷物が届いたらしい。
こんなに大きい荷物なんて頼んだっけ。
思考を巡らすまでもなく、すぐにそれの正体に思い至った。
母親の誕生日プレゼントだ。
2日前、僕は母の誕生日にとAmazonでマッサージ機を買った。
それが届いたのだ。
とりあえず、僕がまだ出発していなかったことで受け取ることができた。
それだけでも良しとしよう。
届いたことを母親に報告する。
急に元気とやる気が出てきた。
僕ははち切れそうなバックパックとチャックが閉まらなくなった手提げカバンを持って、ついに出発した。

地図で調べると、三軒茶屋までは30分ほどかかるらしい。意外と距離がある。
僕は道中動画を撮りながら、これから始まる旅に胸を高鳴らせていた。
おそらく、ひとりでドキュメンタリー映像を撮るのには無理がある。
僕が本来撮りたかった映像は、僕自身がヒッチハイクで乗せてくれた人や旅先で出会った人たちと交流している様子を、第三者の視点から撮ったような映像だ。
YouTuberのように、一人で喋って解説してと言うようなスタイルは気が乗らなかった。
だからとりあえず風景を撮ることにした。
きっと、それだけじゃ撮れ高はあまりないだろうから僕はもう一つ旅のお供を考えていた。
「じゆうちょう」だ。
真っ白なノートに、旅先で出会った人にメッセージを書いてもらう。
個人的にはその人の「夢」を書いてほしいと思っているが、きっとすぐに思いつかない人もいるだろう。そもそも今は夢がないって人もいるかもしれない。だから「じゆうちょう」と言う名前にした。
僕へのメッセージでもいいし、今の気持ちでもいいし、決意でもいい。
とにかくその人の個性が現れたものを何でも良いから書いてもらう。
考えるだけでワクワクした。

僕は適当なコンビニに入り、「じゆうちょう」用のノートと水を購入した。
5分ほど歩くと、三軒茶屋駅に着いた。
平日だと言うのに、やはり混んでいる。
僕はこの時点で、手提げカバンを持ってきたことを
後悔した。
30分歩いただけでめちゃくちゃ疲れた。
カバンだけでも、おそらく3、4キロはある。
それを右手と左手で持ち替えながら歩いてきたが、すでに腕が痛くなってきた。
とりあえずトイレ休憩をしようと、キャロットタワーに寄った。
やはりこの大荷物でエスカレーターを上がっていると周りからの視線が気になる。
仕方ない、慣れていかなければ。
トイレを済ませ、足早に建物を出る。

さぁ、いよいよだ。
インターチェンジ付近でヒッチハイクを開始する前に、スケッチブックに行き先を書かなければならなかった。
とは言え、人目につくところで書くのは恥ずかしい。
大通りを適当に歩きながら、いい感じの場所がないか探した。
1本入ったところに、いい感じに座れそうなスペースがあった。
そこで行き先を書くことにする。
さて、なんて書こう。
おそらく、「東北」や「福島」と書いても、ここから直接そこに行く人はほぼいないだろう。
とりあえず近場を書くことにした。
Googleマップで、いい感じの行き先を調べる。
よし、「大宮」にしよう。
スケッチブックに「大宮方面」と書き、いよいよ準備が整った。

もう一度大通りに出て、良さそうなスポットを探す。
インターチェンジに近過ぎても、車はかなり加速しているため停まってくれる可能性は低い。
かと言って遠過ぎるのも、それはそれで高速に乗らない車ばかりになってしまうかもしれない。
僕は、昨日ネットに載っていたような条件を満たす場所を探した。
「まいばすけっと」の前に、ちょうどいい感じのスペースがあった。
路上駐車している車を避け、そこに荷物を置き、イメージしてみる。うん、いけそうだ。
しかし通行人の目線が気になる。
この大荷物にスケッチブックっぽいものを持っている僕を見たら、周りの人からは既に「これからヒッチハイクをする人だ」と気付かれるかもしれない。
そう思うと途端に恥ずかしくなった。
路上駐車している人、お店の人、通行人、全ての人たちが僕の動きに注目しているような気がしてきた。
多分、ここですぐにスケッチブックを掲げられたら何の問題もなかっただろう。
しかし、僕はこの場所にリュックを下ろしてから、特に何をするでもなく、通り過ぎる車を観察することしかしていない。
周りの人は今の僕を見て何と思うだろうか。

「あの人、ヒッチハイクしたいけど恥ずかしくて出来ないのかな」

通行人のカップルがこっちを見て笑った気がして、また恥ずかしくなってきた。
時間が経てば経つほど、不審者に見られてしまう可能性は高まる。
なんのためにリュックをこの場所に降ろした人なのかわからなくなる。スケッチブックを掲げれば僕は「ヒッチハイカー」になれる。しかしこのまま何も出来ずにただ立っているだけでは、「ヒッチハイクしようとしているのに恥ずかしくて第一歩が踏み出せない人」になってしまう。
自意識がどんどん加速し、ついに居た堪れなくなった。
僕はリュックとバッグを持って、裏路地に逃げ込んだ。

続く。

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