ヒッチハイク紀行文⑮ 難波
「アイちゃんとか最近会ってる?最近稼いでるみたいじゃん?」
「いや、全然会ってないですね」
「連絡も取ってないんだ?」
「はい。たまにグループLINEが動いた時ぐらいですね。宮城さんも入ってるやつ」
僕らが通っていた声優の養成所で同じクラスだった6人は今も交流がある。
宮城さんと僕を含めた6人のLINEでやり取りし、たまに近況報告などをしている。
「そっか。仕事順調なんかな」
「いやぁ、色々大変みたいですよ。主に私生活の方が」
「なに、また恋愛のゴタゴタ?」
「まぁそうですね」
「ツバサと付き合っていた時も色々あったもんな」
「あはは。そうですね。あの時はご迷惑をおかけしました」
養成所に通っていた当時、僕は同じクラスの「アイカ」と言う女性とお付き合いをしていた。
色々トラブルを起こしては、他の4人に迷惑をかけていた。
僕が10代の頃だ。
「いやいや全然。たまにネットでアイちゃんの情報が流れてくるぐらいだから、裏で何やってるか全然わかんないんだけどさ」
アイカは現在タレントとして活動している。
しかし主な収入源は他にあり、それ関連で最近大変な目にあったと言う。
「なんかこの前まで付き合っていた人からのDVがひどくて、警察沙汰になったらしいです」
「え!?そうなん?」
「はい。しかも、付き合っていた相手が、バイト先の店長。で、不倫」
「うわぁ、相変わらずやなぁ」
「しかも極め付けは、そのバイト先と言うのが、水商売」
「え!!?ついにそっちにいったん?」
「はい」
「何やっとんねん!」
「かなりひどい暴力があったらしくて、大変だったみたいですよ」
「そっかぁ」
「稼いだお金で整形とかもしているので、久々に会ったらびっくりするかもしれません」
「整形してんの!?それよくバレんな」
「ね。まぁでも今タレントでもプチ成形ぐらいならしてる人多いですからね」
「せやなぁ。みんな色々あるなぁ。他の3人はどんな感じ?相変わらず?」
「そうですね、残りの3人は変わらずですかね。自分でYouTube始めたり、絵の仕事で稼いだり、それぞれ頑張ってますね」
「そっか。その辺の情報は耳にしてたわ。で、ツバサはヒッチハイクと」
「あはは、そうですね。旅人ですね」
「いやぁ、つくづく3年で色々あんねんなぁって実感してるわ今。俺だけなんも変わってないのがまた焦るわ」
「何をおっしゃいますか。教師やってて、彼女いて、お金もあって。1番安定してますよ」
「いやいやだからよ。不安定な人たちの話聞くと、みんなすげぇなぁって」
「あはは。どんだけあの頃に未練あんすか。じゃあ今すぐタレント活動できますって言われたら、仕事辞めますか?」
「うーん、それは辞めるかもしれん」
「あ、辞めるんすね」
「まぁでも今からYouTube始めたり、また養成所通ったりって気力は無いから、結局このまま教師で終わるんやろな、俺の人生」
「それで結婚すれば良いんすよ」
「結婚なぁ。憂鬱やなぁ」
「お、そろそろじゃないですか?」
店員さんが目の前で料理してくれていたもんじゃ焼きがそろそろ焼き上がる。
お好み焼き屋は久しぶりだ。
今日はお金を気にしない。
その他にも、もつ煮込みやチャンジャ、焼きそばにお好み焼きと、お腹いっぱいになるまで食べた。
「でもアレやな、久しぶりにみんなの話聞いて、自分はつくづく社会人になったなぁと実感してるわ」
「あ、そうですか」
「うん。普段職場の人とか彼女とか、普通の人たちとしか関わらんからさ。もっと色々やれるなぁって思った。と言うより、思い出した感じかな」
「いいじゃないですか」
「うん。いや、ホンマ来てくれてありがとな。ってかお腹いっぱいになった?今日は奢るから遠慮なく食べてな」
「え、良いんすか」
「もちろんもちろん。今後まだまだお金必要になるやろ。取っとき取っとき!」
「あざす!」
「こんぐらいしかしてやれんからさ。そうだ。俺ん家でお風呂入ってもええけど、家の近くに銭湯あんねん。行く?」
「おお、良いっすね。行ってみますか」
「おう、行こ行こ。帰り寄れるから」
宮城さんは夕飯代を全て支払ってくれた。
お礼を言って銭湯へと向かう。
「その辺歩いてる大阪のオッチャンって、独り言多くないっすか?しかも声でかいし」
「ああ、あんなん日常やで」
「今日、あいりん地区の方行ってきたんですよ」
「おお。飛田行った?」
「観光だけ」
「そっかそっか」
「あの辺の子どもも宮城さんの学校に来るんですか?」
「いや、学区が違うから来ないかな」
「なんかめちゃめちゃ襟足長い子どもとかいそうですね」
「ああ、ウチにもおるで」
「あ、いるんだ」
「ウチの学校にめちゃめちゃ可愛い子いてな。インスタで俺のこと特定して友達リクエスト送ってきよんねん。でも勿論返信出来んやん。で、次会った時に『頼むからああいうのはやめてくれ』って言ったら、ちゃんとリクエスト消してくれてな」
「素直っすね」
「そうそう。普段は『おい、宮城!』ってニタニタしてる子なんやけど。そう言うとこ素直やねんな」
「何年生ですか?」
「5年生。めっちゃ顔可愛いねん」
「手出す気じゃないっすか」
「いやいや。それはないわ。アレ!?」
「どうしました?」
「いや、銭湯ココなんやけど閉まってるわ。あ、今日定休日か」
「あら〜残念ですね」
「そうやなぁ。大人しく家で風呂入ろう」
「ですね」
✳︎
時刻は23時。
その後宮城さんの家にお邪魔をした僕はお風呂を頂いた。
風呂だけじゃなく、洗濯までしてもらった。
宮城さん曰くホームレスのようだったと言う僕の見た目は、少しはマシになっただろう。
朝はバタバタするからと、宮城さんは就寝前にじゆうちょうに一言書いてくれた。
「楽しく、健康に、誰よりも自由な人生。やりたいと思ったこと、後まわしせず今すぐに!!
道は続く......」
宮城さんらしい一言だった。
「これ、見て」
「なんですか?」
宮城さんは、手紙を見せてくれた。
「これ、年度末に、担任してたクラスの子からもらった手紙」
そこには子どもたちから「宮城先生」への感謝が綴られていた。
「こう言うのもらっちゃうと辞めれんわ」
「ですね。素敵じゃないっすか」
「いや、本当連絡してくれてありがとな。最近忙しくて自分のこと考えられてへんかったけど、今日1日色々考えれてよかったわ。みんなの話も聞けたし」
「いやいや、僕こそ、奢ってもらったり泊めてもらったり、ありがとうございました」
宮城さんは胸がいっぱいで中々寝付けない様子だったので、僕は先に寝ることにした。
LINEを確認する。
タカさんから連絡が来ていた。
明日10時に出発するから、タイミングが合えば近くのSAまで送ってくれると言う。
ありがたい。
明日も前に進めそうだ。
思えば、昨日の夜は野宿だった。
布団に入ると、今までの疲れがドッと押し寄せてきた。
4日目に使用した金額、1,260円。
明日はどこまで行けるだろう。
続く。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?