見出し画像

高級なフルーツ

桜は散って、ツツジが咲きはじめる今日このごろ。お手軽果物だったみかんは、高級フルーツへと変貌する。

うちには今、ルーティンを愛しこだわりの強い、可愛い悪魔こと娘がいる。イヤイヤ期だ。

そんな娘はみかんを食べることを日課にしている。みかんが欲しいときには冷蔵庫の前に立ち、自分を指差し「○ちゃん?」とアピールする。

他の食べ物は名前で呼べるのに、みかんだけは好きすぎなのか、なんなのか。何度教えても自分を指差して「○ちゃん?」なのだ。最後に?がついて語尾が上がるのがポイント。

これくらいの月齢では、みかんは半分、が妥当らしい。でも二個は食べる。なので食べ終わったらすぐ皮を捨て、遊びに誘い、みかんの残像を追いやることにしていた。

そんなみかんも、一年前の冬には果汁をスプーンで飲ませたら、酸っぱい顔をして少しなめる程度だった。それがこの冬、薄皮を向けばそのまま食べられるようになって、そのうち薄皮ありで食べられるようになって、あれよあれよと自分で皮までむけるようになった。成長が嬉しくて、できたね! と毎回褒めて食べさせていた。だから娘にとってみかんは、むくところを含めてお気に入りで、一度夫がむいてしまったときには怒って泣いていた。

そう。だから、みかんじゃないとだめ。暖かくなってきて、スーパーの棚にみかんは少なくしかも高くなり、代わりにオレンジが並ぶ。だけどオレンジじゃ自分でむけない。似てるのにだめなんて、余計怒るに決まっている。それならない方がましである。

近所のスーパーでみかん五個で六百円超えになっているのを見て決める。みかんを買わないで乗り切れるかやってみよう。代わりにイチゴとバナナとりんごをスタンバイさせておいた。

一日目はなんだかんだごまかし、二日目の昼食時、どうしても食べたくなり号泣。冷蔵庫前に立って指差し、それでも「ないよ」と言いリビングに座り続ける私を冷蔵庫に連れて行こうと引っ張ったり。まあ気持ちはわかる。私だって、毎日楽しみにしているチョコレートが、今日からはありません、なんてことになったらめちゃくちゃ怒るだろうから。

何度も催促するうち、泣きながらもちゃんと「みかん!」と言えるようになっていた。それでももらえないと分かって、私に抱きついて顔を埋めてきた。ああ、泣きつかれて眠いんだと判断し、寝かせる。

起きたときにはもうみかんと言わなかった。りんごとイチゴで納得したみたい。

だいたいいつもそう。泣いて泣いて、それでもダメだと分かったら次からは切り替えている。それがいじらしい。私だったら、一回昼寝しただけじゃチョコは諦められない。子どもって柔軟。

ただでさえ、冬服から春服に変えたり、保育園に行かせたり。どうしても必要な色んな変化があってそのたびに疲れるほど泣くのに、みかんの希望くらい叶えてやればよかったかなぁとも思う。なにかで泣くたびそんな葛藤の繰り返しだ。

はやくまたみかんがお手軽果物に戻りますように。その頃にはまた違う成長をしているのだろうけど。


もしも「いいな」と思われたら、ぜひサポートお願いします♩ZINE作成の資金にさせていただきます。