同期でいたい 7--送別会--
気持ちの整理がつかない内に、高木の異動日は近づいていく。
私が企画したプロジェクトは、高木の代わりに彼の後輩を迎えて、ちゃくちゃくと進んでいた。高木は高木で、引き続きで忙しそうだった。
左遷ということで、あまり大々的には出来ないけれど、本社同期と、高木と特に仲のいい先輩後輩を誘って、送別会を私が企画した。
何もせずに送り出すのは、悲しく思えた。本当は二人でご飯くらい行きたかったけど、そんな時間ももう無さそうだし、わいわいと送った方がいいだろう。
「ずっとここにいるって思ってたのにな…」
自分も高木も転勤があることなんて分かりきってたのに、ずっとこうやって側にいて、曖昧で楽しい関係を続けられるなんて、いつの間に思い込んでいたんだろう。
騒がしい居酒屋の端の席で、ジョッキをゴトリと置いた。
座敷の真ん中で高木はみんなに囲まれて、結構元気そうに見えた。
「ここいい?」
町田課長が、目の前に座った。灰皿を引き寄せてタバコに火をつけようとして、私の顔を見てやめた。
町田課長は、高木と麻雀仲間だったので、この会にも呼んでおいたのだ。
「黒野は、これでいいのか?」
「よくはないですけど、上が決めた辞令に文句つけられる程偉くないですよ」
「じゃなくて。黒野の気持ちはこのままでいいのか」
私はジョッキに目を落とした。水滴が垂れてテーブルをぬらしていた。
「お前はこのまま、あいつと同期をやっていくのか。それでいいのかな」
課長は、20代後半で地方に飛んで、それから何年もかけて本社に戻ってきた人だった。
地方に行く前、今は別の人と寿退社してしまった、本社の同期社員と付き合っていたことがあったという噂だ。でも課長は今もまだ、独身でいる。
送別会は二次会まで続いて解散になった。
「みんなありがとなー」
高木は笑って手をふり去って行く。
もうすぐ終電の時間だ。
私は、課長の言葉を考えながら、一人で駅へと向かう。
***
終電の扉が空気を吐くように、プシューと目の前で閉まった。
電車はどんどん、加速して、去っていく。
私は駅に残っていた。
つづく
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