ゆきだるまとけたら 3
彼……先生のところには先客がいた。同じクラスの林君だ。
「あっ。杉浦せんせーに用? 俺もう終わったから、どうぞ」
にこっと笑って職員室を出て行く。林君を見送って、私は先生に向き合った。
「ここが分からなくて」
小テストを貼り付けたノートを差し出すと、「ふぅん」と先生は覗き込んだ。
「なかなかいいところに気が付くじゃん」
にやりと笑われて、心臓がはねた。そうですよ、先生と話すために、どんな質問ならいいかなって小テストとにらめっこしたんですよ。そんな気持ちを隠して平静を装う。
一生懸命説明してくれるのに悪いけど、ほとんど内容は頭に入らない。
「こんな感じでどう、わかった?」
もう潮時かな。私は大人しくうなずいて答える。
「大丈夫ー」
「他に質問は?」
「ないかなー」
名残惜しいけどそう答えた。
「じゃ、失礼しました」
机を離れようとすると、先生が「おい」と声をかけてきた。
「人の車に雪を乗せんな。汚くなるだろうが」
むすっとした表情だった。
何と答えていいか分からず、無言のまま職員室を出る。
気が付いた? ゆきだるまに?
どうして私がやったってわかったんだろう。私だって確信しているような言い方だった。そんなことするのは私くらいなのかな。最初に私が思い浮かんだなら、嬉しい。
だけどさ。
教室に戻る廊下で立ち尽くす。先生のあの迷惑そうな表情。
本当に嫌そうだった。自慢の車に雪なんか乗せられて嫌だったのかな。
汚いって言った。
そりゃそうか。可愛いゆきだるまだって、とけたら汚い。私がしたことのは、車を汚すタチの悪いいたずらだったんだ。
どんな顔してくれるかなって期待した、私の子どもっぽさったら、ないよね。泣くほどじゃないけど、気持ちが落ち込んだ。
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