ゆきだるまとけたら 4
放課後。誰もいなくなった教室で、のろのろと帰りの準備をしていると林君が入ってきた。
「あれ? かぐらちゃん居残りしてんの?」
「別に。というか、そのかぐらちゃんって呼ぶのなんで?」
特別仲がいいわけじゃないのに、林君は私のことを名前で呼ぶ。あまり男子とは話さないのに、林君だけはなんだかんだ、いつも声をかけてくる。
「え? 女子はみんなそう呼んでない?」
「女子はそうだけど」
他の男子からは苗字にさん付けで呼ばれている。名前で呼ぶのは林君くらいだ。
「嫌だった?」
嫌じゃない。違和感があるだけ。でもあまり意識しているのも出したくなかった。いかにも男子と話すのが慣れてない感じがするから。
「別に。いいよ、なんて呼んでも」
ぶっきらぼうに答えた。よかった、と林君は少し笑った。
ガラガラっと扉が開いて、私たちは同時に振り向く。先生が入ってきた。
なんで、こんなとこ見られるかなぁ。先生が放課後に教室を見回るのを知っているから、時間をつぶして待っていたのに。なにも林君と二人でいるときに来なくても。
「お、何お二人さん。もしかしていい仲なの」
「ちがっ」
ほら、変なこと言われる。そう思いながら否定しようとすると林君が私の言葉をかき消すように言った。
「先生、いい仲っていう言い方さー。なんかオヤジくさいって」
そうカラカラと笑う。
「オヤジくさいってなんだよ。俺まだ26だし」
先生は冗談ぽく怒りながら答えた。
「俺らから見たらオヤジだって。ねえ?」
林君は私の方を見て笑う。私はあいまいにほほえんだ。9歳上、全然あり。先生はオヤジじゃないし。でもそういうことはここで言うことじゃない。
だからって、そうだねーって一緒にはとても笑えない。
「じゃ、用すんだら早く帰れよー」
先生は教室を出て行く。
「待って」
追いかけて、私も廊下に出た。
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