ゆきだるまとけたら 8
浮き足立った教室で、私もその雰囲気にのまれていく。今日はバレンタインだ。
「これどうぞー」
「あ、私も」
クラスメイトの女子からチョコマフィンを受け取り、代わりにチョコチップクッキーを渡す。あっという間に机はお菓子でいっぱいになった。
昨日は二種類お菓子を作った。クッキーとトリュフ。友達に配る用がクッキー。本命はトリュフ。
「先生ーあげるー」
先生が教室に来るやいなや、女子たちがきやっきゃと群がる。義理で渡してる子もいれば、中には多分憧れから渡してる子もいる。
「うわ、俺もてるー! ありがとー」
ワタワタしながら女子とお菓子に囲まれる先生を見て、絶対あれにうもれたくないと思う。
いつどうやって渡せば、もっと記憶に残れるだろう。できれば二人だけの機会をつくりたい。
「これクッキー? ちょうだい」
いつの間にか机の横に、林君が立っていた。
「あげないよ。女子のぶんしか持ってきてないもん」
「えーそうなん? 男子にもみんな配ってるよ?」
「私は女子にしかあげない主義」
なんで好きでもない男にあげなきゃなんない。私があげたい男の人は一人で、それだけで必死なのに。他に配る余裕なんてない。
「えー。かぐらちゃんの手作り食べたかったな」
林君はひょうひょうとそんなことを言う。なんて返せばいいかわからない。からかうのはやめてほしい。
「私がもらったかぐらのクッキー、一枚残ってるよ!」
早帆が林君にクッキーを差し出す。
「ちょっと!」
咎める間もなく、林君は受け取って口にする。
「ラッキー! あ、うまっ」
林君は満足した様子で席に戻っていった。
「なんかいい感じじゃん。林ってかぐらに気があるのかな?」
早帆がにやにや言った。
「そんなんじゃないよ。ほら、他の子にだって普通に話しかけてるし」
ちらりと見ると、林君は隣の席の女子からもお菓子を受け取っていた。
「私が男子慣れしてないの、おもしろがってるだけでしょ」
「そうかなぁ」
アイスを食べている途中で私が走り出して、林君を置いていってしまったあと、林君は何も言ってこなかった。多分先生への気持ちも気づいたのに、それについても何もない。
きっとその程度なのだ。私に興味があるわけじゃない。暇なときに目についたら、ちょっと話しかけて反応を楽しんでるだけ。
「変な勘ぐりはやめてよね。私好きな人いるって知ってるでしょ?」
私は早帆に念押しした。
「はいはい、好きな人ね」
つまらなそうに返事をする早帆を置いて、私は教室を出た。
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