ゆきだるまとけたら 11
「ちょっと待ってて」
先生は職員室に入っていき、しばらくしてから茶封筒を持って出てきた。
「他にバレないように」
渡された封筒を開けると、中には可愛いマトリョーシカの形をした缶が入っていた。
「ホワイトデーまで返事のばすのもいけないなと思って。ほら、結婚しちゃったし。気持ちには応えられないけど、ありがとうな」
「わざわざ準備したの?」
「本気ぽかったから、ちゃんとしようかと。それ、ゆきだるまぽいでしょ。ま、この前の車のお返しでもあるってことで」
先生はふっと笑うと、頭を二回撫でてくれた。そんな風に雑に優しくしないで。そういうことするから、好きになってしまったんだよ。
マトリョーシカ……いや、私たちの間ではゆきだるまになった缶を握りしめる。これが、先生からもらう最初で最後のプレゼントなんだ。
「一生大事にする」
「大げさな。俺のことなんてすぐ忘れるよ。って言ったら、またばかって怒られるかもしれないけど」
ははっと笑って、「ほんと、ありがとな」ともう一度言うと、先生は職員室に帰っていった。
缶をあけると、中にはマトリョーシカの包みにつつまれたチョコレートが入っていた。
ああこれも。暖かい教室に持って帰ったらとけてしまうかもしれない。ドロドロにとけて捨てるしかなくなった、あのアイスを思い出した。
どうするのが、一番大事にできるんだろう。このとけることが運命で、とけてしまったら汚くなってしまうゆきだるまを。
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