グラウンドから神の声

私はキリスト教系の幼稚園に通っていた。一番家から近かったから。

小さい時に聞くシスターの話は「本当のこと」と思っていて、

「神様にお祈りをしていますか?していない人は今日からはじめてください」

という言葉を信じて毎晩心の中でお祈りをしていたし、そうすれば世界は保たれるのだと信じていた。

キリスト教だけじゃなくて、お地蔵さんにも仏壇にもお祈りしていたけど。


でも、シスターの言葉で分からないことがひとつあった。

「良い子にしていれば神様の声が聴こえます」

ということ。どれだけ耳を澄ませても、私には親や友達、先生以外に、何かの声は聴こえなかった。

ある日、トイレに入っているときそれはやってきた。

少し開けてある窓から、

「ふぁいおっ、ふぁいおっ」

リズミカルな声。

「これだ!」

と思った。

小さなトイレの窓からは青空だけが見えていた。


何もお告げ的なことは言っていないけど、これが神の声なんだ。

というか、これしか聴こえないしそういうことにしたいと思った。

気づけばその声は、お昼過ぎによく聴こえてきていた。

そよそよした風に乗せて聴こえる声は、やってきた春、みたいな感じがして、なんだか気分がよかった。


十年たって中学校に入学し、私はその「ふぁいおっふぁいおっ」

の正体を知った。

「○○中~ファイトオー!ファイトオー!」って運動部がグラウンドを走る掛け声だった。

運動部には入らなかったけど、その掛け声だけはやってみたかったなぁと今もひそかに思う。

運動部の「ふぁいおっふぁいおっ」が神の声なら、吹奏楽部が吹くトランペットの音は、天使のラッパかな…。


中学生が主人公のお話を書いていて、ふとそんな小さい頃の勘違いを思い出しました。

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