読了感想「骨猫機甲師団」DARJELING FIRST FLUSH vol.1&2

念願の新刊と既刊をようやく読み終わった。

簡潔に言えば、ガルパン二次創作作品の最高傑作「ラップランドの空の下」と肩を並べる作品が登場した。

ガルパンの人気カプであるダジ×ケイ(順逆自由)を描いた二次創作は多数あったが、二人の出会いから強い結びつきが醸成される過程を、この作品ほど丁寧にテンポ良く説得力を持って描きだした作品は無かった。

あらすじを簡単に紹介する。

ダージリンとケイ。二人の一年生時代から物語は始まる。戦車道の覇者「黒森峰」の西住まほに強烈なライバル意識を持つダージリンと、楽天的で天性の明るさに包まれたケイ。ダージリンは黒森峰を越えるべく試合を画策するも圧倒的な黒森峰に聖グロだけでは戦力的に大きく劣っているためサンダースとの合同チームを誕生させる。しかし両校の経験は大きな隔たりがあり、ボトムアップをはかるためダージリンは合同訓練を指揮する。

だが一切の妥協を拒む厳しさで両校の生徒達を率いるも、ダージリンの苛烈さについて行けない生徒達はダージリンを拒絶し大きな溝が出来てしまう。

ここまでが1巻。

今回頒布された新刊は

絶望したダージリンを理解し再び立ち上がらせるために、ケイは両校の生徒達を和解させわだかまりを解消すべく彼女たちを遊ばせ笑わせ腹一杯食べさせて一つのチームに仕上げる。その甲斐あって両校の生徒達は車両と制服の違いを超えて共闘できる仲間になった。

ケイは持ち前のポジティブさでチームを一つに出来たが、肝心の試合に於いて黒森峰を倒せる知識と頭脳、そして瞬時の判断能力は備えていない。勝利への鍵はダージリンの再起にかかっていたが、訓練の最終日に再びダージリンが指揮を執るとケイに告げられた両校生徒達は動揺する。だが全員の前で自分の方針が間違っていたと謝罪し、自分が何故それほどに勝利を渇望しているかを、自分の生い立ちから全て明らかにしたダージリンを生徒達は許し彼女を再び合同チームの隊長として受け入れた。

一つになった生徒達、志気を鼓舞することに長けたケイと勝利への戦略を秘めたダージリン。戦いの準備は整った。

試合当日。

大歓声と共に行進する黒森峰チーム。校旗を掲げるのはエリカとみほ。王者の風格である。
続いて聖グロとサンダース合同チームは両校の楽隊がド派手に盛り上げる中、サングラスをキメたケイとダージリンが余裕の笑顔で道を進む。

そして試合が始まる。ぶ厚い布陣で正面から攻める黒森峰とチームを分散して撹乱を目論む合同チーム。その戦いの行方は次巻に。

ここからは、この作品「DARJELING FIRST FLUSH」が何故優れた作品なのかを述べたい。

先ず、生き生きとしたキャラクターの作画とその設定が素晴らしい。

全体的にはコミカルな印象を感じさせつつダークな部分はキッチリ暗く描く演出の使い分けが巧い。人気作品の二次創作には、ただただ既存のキャラクターを貶める目的で描かれたものがあり(公式のコミックでも酷いのがある)そういった作品に出会ってしまったときは、運の悪さを嘆くしかない。だが既存のキャラ設定を活かし、独自の視点で異なる空気感をまとわせることにより新たな魅力を生み出すことに成功している作品に出会うと、二次創作作品を読む喜びを実感できる。
この作品におけるダージリンは、ガルパンファンがよく知る、すまして紅茶をいただきながら格言を披露するキャラクターとは大きく異なる。ここでの彼女は才能を秘めた未熟な一年生にすぎない。冷たい野望を隠しつつ誰よりも努力を惜しまない勉強家でもある。資料と書籍、論文に埋まる彼女の私室は実に説得力がある。おそらく学年が上がる頃には下級生は入室できない部屋になったのだろうと想像すると楽しい。

対してサンダースのケイはほとんど本編のままのノリだ。チームメンバーから「マム」と呼ばせる姉御っぽいイメージはまだ薄いが、場の空気を和ませみんなに前を向かせることが出来るポジティブガールだ。この作品では彼女のプライベートな描写は殆ど無い。だが彼女の心の内は多くのコマを割いて描かれている。弱さを見せることが出来ないダージリンを理解し、自分では勤まらない勝利への鍵というダージリンの重責をささえるべく彼女は全身(意味深)と惜しみない言葉で物語を彩っている。

明暗。この作品に於いては二人の描写がハッキリ分かれている。光があるから影がありその逆もまたある。ケイとダージリンはお互いの不十分さを補うために出会うべくして出会ったのだろう。そう思わせるほどこの作品は説得力がある。ダジケイ、ケイダジのファンは考えずにただ読めとしか言いようがない。感じるんだ。

この作品の魅力はまだある。

全体的な作画の丁寧さが大きい。モブキャラも背景もメカもエフェクトまでどこにも手抜きがない。ガルパンの二次創作で戦車を描くのが面倒だったのか「やわらか戦車」で代用した作品があった(信じがたいがプロの漫画家の作品だった)。ガルパンファンは戦車の描写に手抜きを許さない(と思う)。巧い下手の問題じゃない。最低限、描くべき部分はキチンと描いてくれないとどれほどキャラが美しく描かれていて物語が素晴らしかったとしても、戦車の描写が手抜きだと作品全体が評価されないことになりかねない。作画に必要となる資料は山ほどあるのだから、チャーチルはチャーチルに。マチルダはマチルダに見えるように描く必要がある。その点、この作品は安心して読める。

作品全体に流れる空気感も重要だ。1巻は表紙イラストが端的に内容を明示しているがコミカルな部分は最小で、ほぼダークなトーンで描かれている。だが読んでいて嫌悪感は全く感じない。それはおそらくキャラクターにネガティブなイメージを与えるような描写が皆無だからだ。ガルパンの原作ではキャラクターに底意地悪い描写が全くない。それゆえファンタジーとして安心して見られる作品である。だから二次創作でもキャラを陰湿だったり意地悪く描くのは多くの潜在的な読者を失いかねないリスクがある。どのように描くのも作者の自由であるが原作の世界観を尊重してくれた方が読者としては受け入れやすいからだ。
1巻ではダージリンが過酷な経験を経て自分自身の未熟さを知るまでを控えめな表現で淡々と描いている。娯楽的なサービスは無い。読者がダージリンを理解し、その成長を共に体感するに必要なだけ描かれているからだ。無駄がない。
ただそれに徹してしまえば華がない。だからムードメーカーであるケイが活きる。

2巻は反対にケイが大いに誌面を賑わせている。彼女の天性の明るさが最大限に活かされたシーンの連続に読者は1巻のダークな空気感を払拭できる。これは前の方でも書いたように「影があるから光が輝いて見える」ことだ。これらの派手で騒がしい場面をみて幸せな気分に浸りながらも、もし合同チームの片方がプラウダだったらと考えてしまう。文字通り寒いだろうな。サンダースで良かった。ありがとうサンダースとケイ

モブにまぎれてカメオ出演しているメンツも素敵だ。観戦しているエリカとみほ、しほ、チョビ、カチューシャとノンナ。みんながいるとやはり嬉しい。これほどの熱量で描きつつ読者を楽しませるのも忘れない。二次創作作者の鏡だよ、honeさん。

西住まほが、控えめながらちょっとイイ感じに描かかれているのもナイス。開始前の挨拶でダージリンの「貴方を倒しに来た」という言葉に嬉しそうに返すところなんか絶妙の表情だ。どんな戦いも敵が強くなければ盛り上がらない。敵に魅力がなければ主役の輝きも色あせる。西住まほというキャラを派手な描写をせずに魅力的に見せるのは二次創作の作者としては難しいだろうと思う。だって直立不動で揺るぎない自信をもとに相手に敗北を認めさせる…そんなキャラなんだから、2巻でのあの笑顔は最大限のサービスと思っている。ありがとうございます。

少し長くなりすぎたのでいったん筆を置く。落ち着こう。

最終的に黒森峰が勝つか、聖グロ&サンダースが勝つのか、読者としては全く予想が出来ない。楽しみである。

最後に、これほどの作品を見せてくれた作者の「hone」さんに感謝。
長丁場の執筆でさぞお疲れになったと思います。体を休め、美味しい物を食べ良い音楽を聞いたり風のそよめきに耳を傾けたりして十分な休息をとっていただきたい。本を読み映画を観たりして頭をリフレッシュさせてください。健康は大事です。

準備が整ったら最後のパートをお願いします。

1年でも2年でも待ちます。喜んで待ちます。

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