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40代でリ・デザインする自分のミライ -6-

良きことも、悪きことも、長くは続かないもの哉。

すべては順調に進んでいた。このまま経験を重ね、管理職へと歩を進めば、会社員としては安泰なのだろう。
だが、満足できていない自分がいた。

「この会社で、自分が新たに学びたいことがなくなってきた。このままでは頭打ちになるのは必至。こんな状況で自分に先はあるのか?」
そんな疑念がぐるぐると脳裏を巡る。
来る日も来る日も考え続けた。
折しも受注産業である印刷業は、当時すでに斜陽作業と言われており、業界自体がもがいている状況にあった。近年盛況なネット印刷業は、まだ世に出てきていない時代だ。
このままでは、自分の成長が止まるだけでなく、この組織に依存して、そのまま終わってしまう不安もあった。

「印刷物の元となる制作物、その制作や企画を勉強してみたい。モノづくりの上流を知りたい。」
いつしか、この思いが日に日に高まっていった。
この気持ちに気づいたとき、もう以前の気持ちに戻ることはできない。
腹を決め、会社に別れを告げた。

苦しいときの自分を拾ってくれた恩、ここまで育ててくれた恩。
前に進みたい気持ち、恩返しをしたい気持ち、いろいろな思いが交錯する。
迷いに迷った。考えに考えた。
だが、先に進むことを決めた。

ありがたいことに、会社は慰留してくれたが、迷いなく意志を貫いた。
ただ、自分を拾ってくれた社長が最後にかけてくれた言葉は、今も忘れない
「アソウくん、わしは悲しい。悲しいよ…。」
期待を裏切った私への皮肉なのか、言葉通りの哀しみなのか、今となってはわからない。

こうして5年ほど勤めた製版会社を退職し、大阪の制作会社に転職した。
制作会社では、DTPオペレータと製版オペレータを合わせて3年ほどやっていた。
そんな頃、今思えば、最大の転機が訪れる。

製版会社時代の経験を生かし、上長から製版のノウハウを記したマニュアルの作成を指示された。
後進への指導と、ノウハウを共有することが目的だという。

「マニュアルなど作ったことがない。でも、とにかく、やるしかない。」
ネットで参考になりそうな資料を読み漁り、見よう見まねで何とか形にして、提出した。
上長の反応は当たり障りのないもので拍子抜けだったが、後日、別部署の人から声がかかった。
ライティングチームのリーダーからだった。

「マニュアル、読ませてもらった。ホントに初めて作ったのか?」
リーダー氏いわく、粗削りでまだまだではあるが、出来栄えにはびっくりしたとのこと。
これがきっかけになり、ライティングチームに誘われ、即、部署を変わることになった。
自分に選択権はなく、ほぼ強制の人事だった。
これがテクニカルライターとして、歩みを始めるきっかけ。
ちょうど30才になる頃のことだ。

駆け出しのテクニカルライターになってからは、
ただただ地獄の日々が続く。
しっかりした文章も書けない、思い描くような絵も描けない、デザインもわからない。
テクニカルライティングに必要な知識や経験をまったくもっていない、すっからかんの状態。
毎日毎日、日夜、上長から指導の檄がとぶ。

この頃の記憶は、叱られた記憶しかない。そりゃ、つかの間の楽しさもあったのかもしれないが、毎日叱られたことしか覚えていない。
とにかくもがき苦しみ、イライラがつのる日々が続いた。
終電で帰って、始発で出勤が続くことも多々あった。
もはや下積みや修行というよりも、苦行といった方が近い。

「もう無理だ。ぜったいに辞めてやる」
こんなことを何度思ったことか…。
そんな状況で考えていたことは、とにかくこの状況を一刻も早く打開したいという思い。
そのためには、ただひたすら目の前の課題に向き合い、考え、ひたすら手を動かすことしかなかった。
ひとつのクライアントの仕事に慣れてきたら、別のクライアントに転じさせられる。
安住の地、クライアントなどない。
その繰り返しで多くのクライアントのプロジェクトに関わり、着実にこなしていった。
あまりに苦し過ぎて、記憶は定かでないが、こんな暮らしを5年ぐらいはやっていたのではなかろうか。

そんな悩める時代から10年ほど経った今。時代も変わり、世間の様相も変わった。
気がつけば40代に入り、自分の状況も変わった。
業務もライターからディレクションと後進の指導が中心になってきている。

この十数年を振り返り、ひとつ言えることは、
とにかく、直面する課題と向き合い、考え、ひたすら手を動かし続けてきたこと。
今の自分を作り上げた大きな要因はここにある。
失敗なんて山ほどしてきた。恥もたくさんかいてきた。
そのおかげか、切り替えを早くするマインドも養うことができた。

何かの事象について思考し、インプットしたら、とにかく手を動かす。アウトプットする。
そうすることで、新たな気づきを得る。インプットしたことが記憶に定着する。
このルーティンを体感してきた。

いわゆる根性論は、これまで十分に体感してきただけに大嫌いだ。自分以外の誰かにすすめるつもりもない。
しかし、人は所詮、アナログな存在。デジタルなものではできていない。
カラダにインターフェースがあって、電脳にデジタル入力できればたやすいが、そうもいかない。

デジタルな情報も、アナログに変換してインプットした方が、人にはなじみやすい。
そのために、人のインターフェースである五感をうまく使ってアウトプットし、再インプットする。
これを繰り返すことで、自分のできることを少しずつ増やしていく。
これは自分のスキルアップにも、人への指導にも生かすことができる。
人がアナログである限り、これからも使っていけるメソッドだろう。
少なくとも私は、これからも続けていくつもりだ。

【続きます】

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