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役には立たない。でも愛おしい。▶2.紅葉

自然豊かな小道を歩いていた。気づけば10月後半。この時期、どうしても私が注目してしまうのは「紅葉」だ。

私は紅葉が好きで、毎年この時期を楽しみにしている。

見慣れた景色が色づいていく様は、単純に気分が高揚する。日々の流れを視覚的にも感じられるのは、なんだか愛おしい。見た目も緑ばかりの夏より、華やかだと思う。


ただ、一緒に小道を歩いていた人がこんなことを言っていた。

「近くで見ると、きれいじゃないですね。」

悔しいけれど、たしかにそうだと納得できる。紅葉は近くで見たら"枯れていくための準備"をしていることが明らかだ。華やかな色というより、赤褐色に近い(色は植物によって異なる)し、葉に穴があいているのを見ると元気な状態とは思えない。

彼女のぽろっとでた発言を聞いて、私にはかけられたくない言葉だと思ってしまった。紅葉が好きなのに、このモヤモヤした気持ちはどこに向ければよいのだろう。


とはいえ、やはり私にとって紅葉は魅力的である。たぶん理由は、"人生の最後に今までとは違う姿を見せて、美しいと思われてから去っていく"ことに潔さと儚さを感じるから

「近いうちにいなくなるのに、どうしてまだ違う姿を見せようとするの?」
「どうして終わりが見えているのに、美しくいられるの?」

そんなことをつい聞きたくなってしまうのだが、もちろん答えてはもらえない。仮に紅葉と話せたとしても、きっと答えにくい質問だと思う。"なぜ?"と聞かれても、それが生きる術、自然の道理だと言われて相手にもされないだろう。


さて、私たちの生活のなかで"去っていく"瞬間とはいつだろうか。
学校を卒業するとき。
恋人とは別の道に進むとき。
実家を出るとき。
会社を辞めるとき。
ある場所から去るときもあれば、なにかの関係性に区切りをつけるときもあるかもしれない。

"去っていく"のを決めるのは自分。でもなぜか悲しくなったり、後ろめたさを感じたりして、少しマイナスな気持ちになりがち。誰しもそうとは言わないが、少なくとも私には下を向いてしまうことがある。

そんなとき、余裕があればなにかひとつ意識を変えてみるようにしている。
笑顔でいること。
いつもより前向きな言葉を使うこと。
姿勢よく立つこと。
気合を入れてメイクをすること。

なにかを変えるときっと、自分が自分の背中を押してくれる
傍から見たらそれが「潔さと儚さ」を兼ね備えているように見えるのかもしれない。

私はいろんな面を兼ね備えた人になりたいと思う。
紅葉の時期になると、終わりゆく季節を感じながら前に進むスイッチをゆるやかに入れるのである。



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