シナリオ④
第一章 図書館
前回までのあらすじ
高3の夏、僕は友人と地元の図書館を訪れていた。ある日、図書館内で同じ高校に通う、のんという女性に出会う。彼女の名前と存在は、以前からSNSを通じて知っていた。しかしリアルで会うのは、今回が初めて。初めて対面したことで、僕はのんに一目惚れしてしまった。そんな彼女と仲良くなるため、ある作戦を実行する。その名も置き手紙作戦。その手紙には、自分の名前とメールアドレスを記していた。
トラウマ2
作戦当日、この日も友人ユウマと2人で図書館を訪れた。そしてあの特等席を、後ろから監視できる席を確保した。その特等席には、いつも通りのんが座っているからだ。この日は、彼女も友達と2人で訪れているようだ。
「今日に限って2人かよ。」
そんな愚痴を心で吐きながら、僕は席に座った。小学生の時のトラウマが頭をよぎる。
そして昼を過ぎたころ、のん達は席を離れる。腹ごしらえに行くようだ。その特等席を離れたが、勉強道具を置いて行っている。この見晴らしを確保しておくためだ。
席を立ったのを確認すると、僕たちも立ち上がった。ユウマは図書館出入口に、僕は特等席付近の本棚に身を潜める。彼女たちは、僕の存在に気づいていないようだ。そしてユウマからの、ゴーサインである着信がくる。これは彼女たちが、予定通り図書館を出たという合図である。その合図を確認し、僕は紙切れ1枚を特等席に置いていった。置き手紙作戦が完了したのだ。その後、何事もなかったように元の席に戻る僕たち。腰かけるタイミングで、2人で小さくハイタッチした。
作戦完了から約1時間後、長めの昼休憩を終えた女性2人は特等席に戻ってきた。その姿を見つけ、隣のユウマに伝えた。
「やばい。帰ってきた。」
「おっほんと。さあどんな反応するか楽しみやね~」
少なくともユウマは、この状況を楽しんでいるようだ。
のん達の反応を後方30mの席から見守る僕たち。勉強なんてしている場合ではなかった。
すると置き手紙の存在に気づいたようだ。手紙を開くなり、辺りを確認し始めた。「やばい!」と思い、僕たちは顔を隠すため机にうずくまる。ただ恥ずかしかったのだ。
その後、顔を上げたユウマが言った。
「もう大丈夫やない?」
約5分ほど同じ態勢を保っている僕は、やっと身体を起す。
「いや~楽しかったね。どうなるやろかー!!!」
やはりユウマは楽しんでいたようだ。そんなユウマの言葉に薄笑いを浮かべ、お互いに勉強を再開した。
実は隣でユウマがうずくまっている中、僕は何度か顔を上げていた。その際に、のん達の反応を確認していたのだ。
のん達は手紙に気づき、周りを見渡すと笑っていた。僕には彼女たちの笑顔が、人を見下したような笑みに見えた。そう、その光景は小学生の時と全く同じだった。「また置き手紙作戦で失敗してしまった。」そう確信したため、僕は5分ほど同じ態勢を保っていたのである。
その後も勉強を全く捗ることができず、その日の閉館時間をむかえてしまった。僕の心境を察してくれたのだろう。ユウマはその日の帰り道で、ジュースを奢ってくれた。当時流行の最先端であった、フルフルシェイカーだ。
帰宅後、フルフルシェイカーを飲みながら部屋で寛いでいた。ついため息を吐いてしまう。また無駄な二酸化炭素を排出してしまったと、自分を責めていた。そんな小さな自暴自棄に侵されていた時、携帯の着信音が部屋に響く。
「どうせユウマやろな」
いつもこの時間帯に、翌日の図書館に行くか否かの連絡が来る。そのため僕はユウマからのメールであると思い込み、返事を後回しにした。
「お風呂沸いたよー」
リビングからおかんの声が聞こえる。携帯に触れないまま、着替えを準備し部屋を後にした。「もう絶対に置き手紙なんかしない」そんな強い思いのまま、僕は湯船に浸かった。
続く
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