シナリオ⑧
第二章 大学
前回までのあらすじ
高3の夏、友人のユウマと地元の図書館を訪れていた。ある日、図書館内で同じ高校に通うのんという女性に出会う。リアルで会うのは、今回が初めて。会った瞬間、僕はのんに一目惚れしてしまった。そして夏休み最後日、2人は付き合うことになる。そんな青春アニメのように始まった恋。僕はいつまでもこの関係が続くと思っていた、、、、、、
厄介者・たちが悪いもの
「いつか聞こう。」
卒業式当日、僕は体育館で古びたパイプ椅子に座っていた。目の前では、校長が目を潤わせながら、卒業生に長々と熱い思いを語っている。
夏のセミと同様、とにかく彼の声に鬱陶しさを感じつつも、一方でその時間は3年間の高校生活を振り返るには最適だった。
卒業式の約5か月前。学校周辺の木々たちが紅葉する季節。のんは別れをきりだした。
携帯画面に映る、「別れよう。」という文字たち。そんな冷たい5文字によって、僕たちの関係に終止符が打たれた。季節外れの寒気だった。
2人は秋さえも超えることが出来なかった。
理由をその場で聞くことはできた。しかしお互いに大学受験勉強の追い込み期間。
長くやり取りが続くかもしれない文章を、僕は容易く送ることができなかった。
でも聞きたい、理由が知りたい。そんな衝動に駆られては携帯を開く。その瞬間、我に帰り勉強に取り掛かる。
その訳の分からない禁断症状に悩まされた結果、僕はあるものを遠ざけた。
人間の五感とは本当に厄介だ。聴覚で振動を受け取るだけで、初めてメールをした日を思い出す。
そう、僕はGReeeeNを一切聴かなくなってしまった。あれだけ好きだったアーティストから、いつの間にか足を洗っていたのだ。
「いつか聞こう。いつか別れた理由を聞こう。」
頭の中で流れる3年間の回想シーンは、そんな言葉でエンドロールをむかえていった。
校長の話が終わり、校歌を口パクし各クラスの教室へ。最後のホームルームの幕開けである。
最後に担任含むクラス全員で写真を撮り、友達と教室を後にする。
のんは第一志望の大学に、見事合格していた。場所は鹿児島である。一方僕は、北九州に残ることが決まっていた。
同じ九州同士であるが、当時18歳の青年にはその距離が果てしなく遠く感じていた。
「もう会うことはないのかもしれない。」
このタイミングで弱虫な自分が出てくる。感情とは本当にたちが悪い。
その思いを押し殺しつつ、昇降口へ向かう。
外靴を履いた瞬間、今まで我慢していた涙が、滝のように流れ出た。靴を履きながら涙するなど、人生で初めての経験である。
隣にいる友人は、このタイミングで涙する僕に驚きながらも笑っていた。
卒業で泣いたのか、失恋で泣いていたのか、もう僕には全くといって分からなかった。
涙の涙の卒業式から、3年後。
僕は大学で所属する、野球部において全国大会予選を戦っていた。
その帰り道、いつも通り助手席に座り、シートベルトを締める。そして後部座席にいる部員と、口頭で試合の反省会を行っていた。
議論が白熱していく中で、携帯が音を鳴らし、LINEの通知を知らせてくる。
音に反応し画面に目をやると、そこには見覚えのある名前が表示されていた。
続く
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