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シナリオ⑭

第三章 社会人

前回までのあらすじ

 高3の夏、友人のユウマと地元の図書館を訪れていた。ある日、図書館内で同じ高校に通うのんに、一目惚れしてしまった。そして夏休み最終日、2人は付き合うことになる。その4か月後、理由も分からずのんから別れを告げられる。そして3年後、のんからの連絡がきっかけで再開を果たす。この再開が功を奏し、2人は復縁。しかしその1ヵ月後、関係はすぐに終わってしまう。これは、のんとの出会いと別れを繰り返した物語。

いつまでも

 2人で再開し、ご飯を食べて、電車に乗り、お互いの家に帰る。

 前と違うのはただ1つ。

 2人が恋人同士ではないということだけだ。

 1つのピースが重ならないだけで、こんなにも違和感に苛まれる。まるでパズルのように。

 お互い吊革に手をやり、電車内でも色々な話をした。「また会おう」なんて、話していた気がする。本当に奇妙な関係だ。

 時より外の景色に目をやる。

 田舎なのか、都会なのか、分からない光景が永遠に続く。人がいないわけではないが、溢れているわけではない。街灯がない夜道が続くわけでもなければ、さほど明るくはない。

 この街並みは、僕達に似て非常に中途半端である。

 のんにとって、他にこんな関係の男性がいるのであろうか。それとも、1人だけなのだろうか。真相は分からない。

 この関係を「友達」という2文字で表現されれば、もうお手上げである。

 僕は正直、そんな落ち武者気分で電車に乗っていた。


 途中、電車は止まったがその後は何事もなく、のんの最寄り駅に到着する。今思えば、あの止まった時間は神様がくれた最後のチャンスだったのかもしれない。

 そんな神からの恵みを、易々受け取りそびれていた。

 

 「じゃあまたね。」

 のんは素敵な笑顔を振りまき、僕に手を振った。

 やはり彼女の笑顔は、落ち武者にとって良薬である。

 

 もう2人のシナリオは、交わることがないかもしれない。

 それでもよいではないか。一向に友達関係が続くのであれば、よいではないか。彼女の笑顔を時々見ることができるのであればよいではないか。

 この気持ちも、いつか時間が解決してくれるであろう。

 彼女が別れ際に放った言葉を、表情を信じようと思う。もうしばらくの間、この気持ちと向き合ってみようと思う。

 のんが下車した後、イヤホンを取り出し携帯に装着する。今回はシャッフル再生を選ばない。

 「いつか自分のシナリオに、キセキが起きることを願って」

 僕は、アーティスト検索からGReeeeNにアイコンを合わせた。

 

 終

 

  

 

 

 

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