シナリオ⑬
第三章 社会人
前回までのあらすじ
高3の夏、友人のユウマと地元の図書館を訪れていた。ある日、図書館内で同じ高校に通うのんに、一目惚れしてしまった。そして夏休み最終日、2人は付き合うことになる。その4か月後、理由も分からずのんから別れを告げられる。そして3年後、のんからの連絡がきっかけで再開を果たす。この再開が功を奏し、2人は復縁。しかしその1ヵ月後、関係はすぐに終わってしまう。これは、のんとの出会いと別れを繰り返した物語。
鯉
別れた女性とこれだけ連絡をとっているのは、彼女しかいない。
のんが住む鹿児島を訪れた矢先の1ヵ月後、僕はフラれた。
しかしそれから1年後、1年半年後、2年後、、、、、、あらゆる頻度でお互いの近況を報告をしていた。休学するだの、大学の卒論が難しいだの、復学するだの、就職が福岡に決まっただの。
今考えれば妙な関係である。
そしてフラれて3年後の2019年11月。
再度僕らは再開した。場所は、のんが予約してくれた居酒屋に決まった。
店内は和のテイストで溢れ、入り口には鯉が泳ぐ、小さな水槽があった。まさに居酒屋の概念をひっくり返すような、非常に落ち着いている店内だった。
彼女が選ぶお店は、どこも料理が美味しかった。大学生の時に鹿児島で行った焼肉屋、古風居酒屋、かき氷屋。とにかく僕の舌に合う店ばかりを、のんは紹介してくれる。
今回の居酒屋も大当たり。
「なんで俺たち別れてしまったんやろね」
のんにそう言って、唐揚げの丸皿に手を伸ばす。
永遠に聞けなかった答えに対し、やっとの思いで質問することができた。この時ばかりは、時間が勇気を与えてくれたのだ。
「ほんと。なんで別れちゃったんだろうね。」
そう言いながら、彼女も自分の箸を止めようとはしなかった。のんもこのお店の料理に夢中だったのだろう。
「あのね、」
手で口を押えながら、彼女は決心したように語りだした。
そして最後に、
「私、遠距離に向いてないなって気づいたの。」
そう言って、自分の主張を締めくくった。最後の言葉の際、彼女の口の中に唐揚げは残っていなかった。
ずっと気になっていたことが、あっさり解決してしまった。
「これだけ小さいことを、自分で聞けなかったのか。」後悔の念で、箸が止まる。
その後、約1時間ほど居酒屋にいた気がする。何とか気持ちを保って会話した。
会計を済ませ、のんは先に外で待っている。僕はお手洗いに行き、彼女の後を追った。
「もう来ることはないよ。」
入口の鯉に心の中で話しかける。この店の鯉に、永遠の別れを告げた。
特に行く当てもない。そのため駅に直行する。
以前は駅まで手を繋いだ。
しかし今は叶わない。叶うはずがない。
そんな感情も、今回は僕独りのモノ。隣を歩く女性と共有できるわけがない。
隣に人間がいるのに孤独を感じる。矛盾に聞こえるが、孤独とはそういうものなのだ。この時、孤独の本当の意味を彼女が教えてくれた気がする。
続く
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