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シナリオ③

第一章 図書館

前回までのあらすじ

 高3の夏、僕は友人と地元の図書館を訪れていた。その図書館には目の前にある海を、一望できる席がある。その特等席は、いつも同じ人によって陣取られていた。ある日、図書館内で同じ高校に通う、のんという女性に出会う。彼女の名前と存在は、以前からSNSを通じて知っていた。しかしリアルで会うのは、今回が初めて。初めて対面したことで、僕はのんに一目惚れしてしまった。そんな彼女は、特等席に座っていた。のんこそが、あの特等席の住人であったのだ。

代償

 当時、置き手紙には嫌な思い出があった。それは小学生時の、トラウマがあったからだ。

 小学校6年生の時、クラス内では交換日記が流行っていた。そのため、それぞれの派閥に分かれ、交換日記コニュニティーが形成されていた。僕は仲の良い男女合わせた6人で、日記を共有していた。密かに思いを寄せていた女の子も、そのメンバーの1人だった。

 元々、文字を書くことが大嫌いな僕。しかしこの交換日記を機に、文字を書くことに対しての抵抗感は、徐々になくなっていった。寧ろ、はまっていたのだ。単純な性格の僕だ、理由は言うまでもないだろう。

 次第に募っていく思いを制御できない僕は、文字にして自分の気持ちを伝えることにした。さすがに交換日記内で、告白するのはまずい。そこで思いついたのが手紙だ。しかし好きな女の子の周りには、常に取り巻きが存在するため、直接手紙を渡すのは難しい。そこで置き手紙という選択肢を選んだ。

 放課後の野球の練習中、僕はトイレに行くことを理由に教室内へ潜入。誰もいないことを確認し、好きな女の引き出しに手紙を忍ばせた。

 次の日、僕は眠気と闘いながら登校した。置き手紙のせいで、上手く寝ることができなかったのだ。目をこすりながら教室に入ると、あの子の机に4人ほどの女子が集まっている。そして僕の存在に気づいた彼女たちは、バカにしたような顔で笑ってきた。

 僕は呆気なく振られ、僕のたちの交換日記もその日を境に終わってしまった。



 のんに一目惚れしてからの数日後、そんな置き手紙事件の存在を知らない友人ユウマと、僕は図書館を訪れていた。いつも通り勉強した後、ユウマと図書館に併設されているお好み焼き屋に行くことになった。生地を混ぜているユウマに伝えた。

 「特等席の人さ、俺と同じ高校の人やったわ。」

 「お~!まじか!!それは知らんかった!確かあの席の人って女やったよね?」

 ユウマと違う高校に通う僕は、ユウマの「女」という表現に違和感を覚える。「彼女は女性ばい。女やないけん!」と熱い気持ちを伝えようとしたが、間髪入れずにユウマが話し出したので黙っていた。

 「んで、あんちゃんはさ、その子のこと好きなんやろ?」

 そう言って、混ぜた生地を鉄板に広げる。さすがユウマだ。辛い部活動の練習を一緒に耐えてきた戦友は、いとも簡単に僕の心中を見抜いていた。

 「うん。そうなんやけどさ、、、、、これからどうしようか迷いよってね。」

 その言葉に続け、図書館が初めての出会いだったこと、彼女の連絡先を知らないことなど、お互いの現状を全て説明した。すると戦友は答えた。

 「まずはメアド交換せんとやね~、、、、、。図書館で会話をするのも気が引けるし、、、、手紙にメアド書いて渡せば?あっ!置き手紙とか!!!その子が席を外した時に、その特等席に置いてみたら?もし了承してくれたら、メールできて仲良くなれるやん!この作戦めっちゃ良いやん!!」

 戦友は1人興奮しているようだ。一方で、冷静に話を聞いている僕。置き手紙にトラウマがあるためである。しかし図書館で長話するのは、確かに酷だ。しかもメールなら、この夏休み期間でも繋がりを持てる。こんな思考を巡らせた結果、もう一度置き手紙と運命を共にすることを決めた。結論に達しスッキリしたものの、時すでに遅し。目の前のお好み焼きは、丸焦げになってしまった。

 重大な決断には、必ず代償がつきものである。人は誰しも、代償なき一生など送ることはできない。当時もそうである。トラウマと向き合うという代償、お好み焼きが丸焦げという代償を受け入れた結果、僕は置き手紙作戦に踏み切ることができた。

 そんな代償の認識さえできていれば、その先も彼女に対して向き合えたのだろうか?2人の恋のシナリオは、まだ続いていたのだろうか?何かを捨てていれば、彼女とこの先も一緒にいれたのだろうか?今になって分かる気がする。


 お好み焼き丸焦げ事件の翌日、僕は人生2回目の置き手紙作戦を実行した。

続く

 


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