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生きる意味 「うそだろ」 液晶画面は、自分がプレゼントした腕時計を映し出す。シュンは驚きを隠しきれず、一目散に家を飛び出した。 雪の影響で滑りやすくなっているにも関わらず、階段を1つ飛ばしで降りて行く。自動ドアのロビーで一時停止するも、そこからは全速力で事件現場へと走った。 走ること10分、シュンの体から季節外れの汗が大量に噴き出す。 「あと少し。」 自分を奮い立たせた瞬間、アヤと過ごした思い出がシュンの頭の中を巡った。 出会いはシュンの
前兆。砂嵐と張り紙 2025年、8月の夜。 「話があるんだけど。」 シュンは自分の手を後ろに回し、アヤの背後から声をかけた。 この時2人が同棲して3年が経過していた。 「なにー?」 家事を終えたアヤはソファーに座り、ニュース番組を見ながら口だけで返答する。 1日の終わりはニュースで締める。かつてバリバリのキャリアウーマンであった彼女には、このように捨てきれない習慣がいくつかあった。 その番組では、家の近所で起きた通り魔事件の特番をやっていた。まだ感
giverとtaker 2020年5月。 「これが収まったら同棲しよう。だから大丈夫。俺らなら大丈夫。」 真夜中の2時、電話越しでシュンは必死にアヤを励ます。 それは2人に自宅待機命令が下され、2ヵ月が経過していた頃である。 この年の初め、世界では感染症が大流行した。国内には観光客が消え、町には人が消え、飲食店・観光業など多くの業界は休業を余儀なくされた。その他の会社員たちは、在宅勤務や自宅待機。世界の医療従事者は、昼夜休まず患者の処置にあたった