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たられば

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完結済みです。「死とは?」これは「何でも屋」と「高嶺の花」の物語。フィクション小説です。
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#コロナ鬱

たられば〈9話〉

生きる意味  「うそだろ」  液晶画面は、自分がプレゼントした腕時計を映し出す。シュンは驚きを隠しきれず、一目散に家を飛び出した。  雪の影響で滑りやすくなっているにも関わらず、階段を1つ飛ばしで降りて行く。自動ドアのロビーで一時停止するも、そこからは全速力で事件現場へと走った。      走ること10分、シュンの体から季節外れの汗が大量に噴き出す。  「あと少し。」  自分を奮い立たせた瞬間、アヤと過ごした思い出がシュンの頭の中を巡った。 出会いはシュンの

たられば<6話>

前兆。砂嵐と張り紙 2025年、8月の夜。  「話があるんだけど。」  シュンは自分の手を後ろに回し、アヤの背後から声をかけた。  この時2人が同棲して3年が経過していた。  「なにー?」  家事を終えたアヤはソファーに座り、ニュース番組を見ながら口だけで返答する。  1日の終わりはニュースで締める。かつてバリバリのキャリアウーマンであった彼女には、このように捨てきれない習慣がいくつかあった。  その番組では、家の近所で起きた通り魔事件の特番をやっていた。まだ感

たられば<4話>

giverとtaker 2020年5月。 「これが収まったら同棲しよう。だから大丈夫。俺らなら大丈夫。」 真夜中の2時、電話越しでシュンは必死にアヤを励ます。 それは2人に自宅待機命令が下され、2ヵ月が経過していた頃である。   この年の初め、世界では感染症が大流行した。国内には観光客が消え、町には人が消え、飲食店・観光業など多くの業界は休業を余儀なくされた。その他の会社員たちは、在宅勤務や自宅待機。世界の医療従事者は、昼夜休まず患者の処置にあたった