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「キリン」首の骨は人と同数か、プラス1か

スタイルはモデル級
頭までの高さは約6m

 自分よりも大きな生き物に対して、憧れと畏怖が入り混じった思いを抱きます。とくにキリンは子どもの頃からなぜか目が離せない生き物の1種でした。その長い首はしなやかで、歩く姿は悠然として気品を感じ、眼差しはやさしげでどことなく哀愁を漂わせています。容姿を語るだけでも、魅力がいくつも挙げられそうです。

柵の上から顔を出すキリン

 キリンの首の長い動物で有名ですが脚も長く、じつは後肢より前肢のほうがやや長くなっています。首や前肢が長い理由としては、高いところに生えている木の葉っぱを食べるためとされています。葉物を好んで食べ、首や脚がスラッとしているなんて、まるで体型維持に気を配っているモデルのようだといつも思います。

じつは頭に角が3本
短くとも強力な武器

 スマートな容姿のキリンですが、メスを巡って戦う姿は意外と苛烈です。長い首と首をぶつけ合う「ネッキング」で戦うのですが、その際に武器となるのが頭に生えている角です。

キリンの頭。頭頂部と額に角が生えている

 一見するとわかりにくいのですが、キリンには頭頂部の左右にそれぞれ1本ずつと、額に1本、計3本の角があります。これらはいずれも短くて先端が丸みを帯びているので、攻撃用にみえないかもしれません。ですが、この角は頭部の骨が突起状に変化したものなので、硬質かつ強靭。しかもオスはメスよりも頭が重いそうで、しなる首から放たれるこの角の一撃は、さぞ強力なものでしょう。

マサイキリンの頭骨
(王子動物園所蔵)

 ちなみに動物の雑学本などでは「キリンの角は5本」と書かれることもあるそうですが、実際は後頭部の突起が角と誤認されているそうです。ただ、もしかするとその突起さえもネッキングの武器に使用されているのでは、と個人的に思っています。

頚椎の数は7コでも
胸椎が8コ目の役割を

 ずいぶんと有名になったので知っている人も多いと思いますが、キリンと人間は頚椎(首の骨)の数が一緒で7コです。あれだけ長い首なのに、首の骨の数は私たちと同じだと考えると、ちょっと不思議に思います。ですが、じつは研究者間で過去に「キリンの頚椎は8コではないか」といった意見が出たこともあるそうです。

キリンの全身骨格
(王子動物園所蔵)

 この指摘に対し、近年日本の研究者が「キリンの第一胸椎(胸の骨のひとつ)は8コ目の頚椎の役割を果たしている」といった内容の発見をしました。 キリンの第一胸椎は、首の骨のように可動性があり、キリンの首の可動範囲をさらに拡大しているらしいのです。

 この大発見に至るまで、研究者は多くのキリンの標本を解剖し、CTスキャンを撮り、データを取ってきたそうです。つまり、どれだけたくさんの人に認知されている動物であっても、多くの苦労の先にはだれも知らなかった新事実が多く残されているかもしれないのです。この世界に生きている動物たちには、いったいどれだけの可能性が残されているのでしょうか。動物園に行く機会が増えるこの季節、そうした発見につながる「気づき」がないか、生き物たちをじっくり観察してみてはいかがでしょうか。

参考文献
・郡司芽久『キリン解剖記』ナツメ社 2019年
・成島悦雄(監修)『おもしろいきものポケット図鑑 動物園へ行こう!』エムピージェー 2023年

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