見出し画像

「コイ」大口を開けて寄ってくるワケ

「エサよこせ」と魚群が迫る
 兵庫県の尼崎にある一級河川、庄下川の近くを歩いていたときのことです。この川はたくさんのミシシッピアカミミガメ(Trachemys scripta)がみられますが、イシガメ(Mauremys japonica)も生息しているとのことですので、この川近くを歩く際は、いつもイシガメを探してしまいます。

ミシシッピアカミミガメの群れ
(庄下川にて撮影)

 濁った川面をみつめながら歩いていると、無数の魚影がうぞぞぞっ、と私のそばに寄ってきて、その大きな口を水面から出してパクパクと開け閉めしてみせます。感情の読めない黒く丸い目と、口元のひげ。コイ(Cyprinus carpio)の群れです。鈍色の体に映える、薄ピンクの口は、数が集まるとおぞましくみえてきます。たとえるなら、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』で、罪人が一本の細い糸に群がってくるような感覚でしょうか。灰暗い水のなかから、私に向かって「エサをよこせ」と訴えてくる、私とは異なるいきもの。なにも持参していなかったうえに、基本的に野生動物には餌付けしない私は、悲痛に訴えてくるコイを無視して踵を返しました。

川面から口を出すコイの群集
(庄下川にて撮影)

胃がない魚の苦悩
 そういえば、と振り返ってスマートフォンの画像データをみ返すと、コイを写した写真の多くは、みな水面から口を出して、パクパクさせていました。比較的人に近い環境のコイであることは共通しますが、どのコイも時間帯問わずエサをねだっているようにみえます。鳥類については少し知識がある私ですが、魚はあまり詳しくないので、いい機会だと調べてみました。

人に飼われているコイ

 どうやらコイには胃が存在しない「無胃魚(むいぎょ)」という魚類だそうです。つまり食道と腸が直結しているため、食べたらすぐにお腹が空いてしまうそうです。あの無感情にみえる目の理由は、常に食べることだけしか考えられないからこその目なのだと思うと、納得すると同時に、少しかわいそうにも思えてきます。

憐れんでも餌付けは控えて
 水面下から私の存在がみえただけで寄ってきたので、庄下川のコイたちは、だれかが餌付けしているのでしょうか。もしそうだとしたら、その人物はコイに胃がないことを知っていて、憐れんだのかもしれません。体の構造上、常に飢餓状態であるその魚のことを。
 それでも、野生下にある魚にエサを与える行為は、その水質の悪化や特定の種の増加促進にも繋がると思われるので、あまり肯定できません。肯定はできませんが、コイたちの事情を知った今、私はあの日のように冷淡に、コイたちに踵を返せないな、と思っています。

参考文献など
・「胃袋がある魚とない魚、ガツガツ食べるのはどっち? 違いは「フン」に表れる!?」AERAオンライン 2021年1月29日配信
https://news.line.me/detail/oa-aera/ddll1xdq68aq

サポートいただきましたら、今後の活動費用に使いたいと思っています! 素敵な記事をたくさん書いていきたいです!!