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「ラッコ」今みておきたい海獣No.1

国内飼育数わずか3頭
飼育施設は2館のみ

 noteで記事の投稿を始めてから、昔撮影した写真をみ返す機会が増えました。これまであちこちで撮影してきた生き物の写真を眺めていると、とある動物の写真が目につきました。つぶらな瞳で、ぷかぷかと水面に浮かぶもこもこ動物、ラッコです。そういえば昔はあちこちでみられたラッコですが、最近ではみる機会が減りました。現在では、ラッコを飼育している施設が2施設だけになったからです。

飼育されているラッコ。
2019年、須磨水族館にて撮影

 飼育施設減少の原因は、飼育繁殖の難しさにあるとのこと。オスのラッコはメスを狙う際、ほかのオス個体や子どもの個体を排除しようとするそうです。また、水族館などの飼育施設で生まれ育ったオスは、「草食化」して繁殖しづらくなることも。

 国内で増やすことが難しければ、輸入に頼ることもできます。しかし、ラッコは2000年に国際自然保護連合(IUCN)にて絶滅危惧種に指定されてしまったため、簡単には輸入できなくなっているのです。こうした事情によって、最盛期である1982年には28もの施設で飼育されていたラッコは、現在三重県と福岡県の施設だけでしかみられなくなり、飼育個体の数もたった3頭(2024年6月末時点)のみとなっています。

北海道・霧多布岬では
多数の目撃数も

 飼育個体がなかなかみられないのなら、野生個体はどうでしょうか。じつは日本では北海道の霧多布岬にて、野生のラッコが目撃されています。同岬ではラッコの目撃だけでなく繁殖も確認されており、2024年の春にも同岬で赤ちゃんラッコの誕生が報告されています。

ラッコの幼獣の剥製。
2019年、須磨水族館にて展示

 同岬でみられるラッコの頭数は10頭余とされていますが、最近では観光客によるドローンの撮影により、ラッコの群れが一斉に逃げ出すことがあるそうです。一度姿を消したラッコがまた確認できるようになるまで半年かかるとのことで、同岬ではドローンを飛ばさないよう呼びかける案内板が設置されています。

生態系を左右する
キーストーン種

 国際的にラッコは絶滅危惧種で守られるべき生物種であると前述しましたが、国内でも1912年にラッコの捕獲を禁止する法律が制定されており、それは現在でも有効です。ラッコは19世紀に毛皮目的で乱獲された歴史があり、日本やアメリカ、ロシア、カナダの間で国際的な保護の枠組みが作られています。

 ラッコはウニを大量に食べる海獣です。もし、ラッコが乱獲などで数を減らしてしまうと、ウニが大量に増えてしまい、増えたウニが海藻を食べ尽くしてしまい、海藻を利用して生きている魚たちの繁殖にも影響を与えます。このように、生態系の構成に大きな影響を及ぼしうる生物種のことを「キーストーン種」と呼びます。

ラッコの後ろ姿。
顔を撮影できた写真が少なく、悔やまれる

 気軽にみられない、生態系に大きな影響力をもつとされるラッコ。このまま飼育施設がなくなってしまって、野生でみられていた場所にもラッコが逃げ出してしまったら、日本では完全にみられなくなってしまうかもしれません。そうなる前に、今年の夏この愛おしい海の生き物に会いに行ってみてはいかがでしょうか。もしかすると、今がラッコ観察の唯一のチャンスかもしれませんよ。

参考文献
・水族館で減り続けるラッコ、わずか2施設の3匹のみ…繁殖は困難で捕獲も禁止 読売新聞2023年5月23日
・北海道に野生ラッコの群れ ドローン撮影相次ぎ 姿を消すことも 朝日新聞2024年6月15日
・児玉浩憲『生態系のふしぎ』サイエンス・アイ新書 2009年


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