大学職員だった時のハナシ その1

蜘蛛の糸

 この記事は、精神も体もボロボロになった後にリハビリをしていた頃の昔のハナシである。

 IT界のサグラダファミリアというクソ案件金融案件に携わったがために毎月400時間稼働というアホみたいな状況で限界まで追い込まれたしまったオッサンを見るに見かねた大学の同期が助けてくれて、リハビリ先として放り込まれたのがとある大学のIT担当職員という少し特殊な職場だった。

 既にまともな思考をすることができなくなっていたオッサンは、友人の手を借りて履歴書を書き、面接を受けたんだと思う。実はこのあたりの記憶はほとんど残っていない。金融案件に残った仲間からたまにフレンドリーな生存確認のメールが来るところを見ると金融案件はヤバイ抜け方をしていないんじゃないかと思う。大学の職員面接では理事長や学長、事務局長といったエライ人とも面接をしたらしいのだが、全く覚えていない。

 覚えているのは面接の前か、後かは分からないが、大学の中庭のベンチで座りながら日向ぼっこをしていて、秋のやわらかい日光が暖かくてなぜか勝手に涙が流れてきて、しばらく涙が止まらなくなったことぐらいだ。

 平穏な日々に戻ってこれた。
 そんな安堵感しかなかったような気がする。

平和な毎日

 これは忙しく働いていたヒトのあるある、かもしれないが稼働がキツイ現場から稼働がゆるい現場に代わると、時間を持て余すようになる。ようは毎日数時間の残業がなくなり自分の時間が増え、その時間をどうやって潰していいかわからなくなっているのだ。大手町からできるだけ遠くに離れたくて大学の近くの学生街に引っ越しをして通勤時間が1日10分も無い状況になるとさらに時間が余った。
 
 その増えた時間を有意義なことに何一つ使うことなく、オッサンはただひたすら寝った。毎日12~4時間ぐらい寝ていたんじゃないかと思う。朝8時に起きて、17:15には家に帰ってきてたから、そのぐらいは寝てた。超絶ホワイトな9時5時生活万歳。

 暇ならゲームでもやれよ、と発売されたばかりの1050TIを貰っても使い道がなく、どうせなら寝ている間にタワーPCを何か面白いことで動かしておこう、なんて軽い考えで胡散臭いと話題になり始めたばかりのビットコインのマイニングを選択。大学職員の数年間、部屋の片隅でひたすらマイニングをしていた結果(なんでこのPC電源が入っているんだろう?と、引っ越す時までマイニングをしていることすら忘れていた)、税務署にガチのトーンで叱られる事態に発展するけれど、そのハナシは今回は割愛。

元気があればなんでもできる 

 人間、寝てメシを食えば少しずつ元気になり、スーパーボウルでブレディの活躍を喜べるようになった頃、大学に職員食堂で昼メシを喰ってタバコを吸ってカフェでコーヒーを飲むだけで給料を貰うのは申し訳なくなってきて、部長教授に泣きつかれる形で大学IT推進5カ年計画の予算案作成に首を突っ込み、この予算案で派手なやらかしをやってしまうのは有り余るパワーを全力で突っ込んでしまったからに他ならない。

 この予算案作成で関係各所と折衝で学内を走り回るんだけれど、教授会の派閥争いや、教員と職員の骨肉の争い、職員ヒエラルキーの序列を目の当たりにする。これがとても面白いハナシなので、これもいつか書こうと思う。

 職員は背広という暗黙の決まりがあり、みなさん背広を着ている中で、数百人いる職員で唯一、オッサンはビジネスカジュアルを選択。巨大なオタクフィギュアをルーブル美術館においてしまう美術家のようなビジュアルのオッサンは、教員とよく間違われることによって背広を着ていないという注意を無事に回避。事務局長や人事部長に人事評価で呼び出されたときもスルーされ、背広を着なければいけない時にしぶしぶと着ていくと職員に今日は学会発表ですか?と言われるまでにビジネスカジュアルで溶け込むことに成功した。社会不適合者のなせるワザである。

 この格好で学内を走りまわり、どこにいっても職員扱いされなかったのが物事を上手く進められたコツだったのだが、狙ってやったわけではなく背広が着るのが金融案件を思い出して嫌だからという非常に個人的な理由だった。教授のいる会議では同類と見られ、職員のいる会議では教員が顧問で参加していると見られ、居心地の悪い会議は一つもなかった。普段仕事をロクにしてなかったので顔が売れていなかったというのもある。

 そしてなんとかまとめた予算案を経理にぶつけることになるワケだがここで単年度会計という仕組みが立ちはだかる。学校法人の会計は単年度会計だから複数年契約などが承認されずらい。ひょっとしたらあの学校法人だけなのか?どうなんだろう?

 どんな問題がおこったのかというと。
 ベンダー提案で、5年契約だと100万円です。1年契約だと25万です。なので5年契約をした方が得です。というセールス案内が来た場合であっても、1年契約にしないといけない。

        いや、無駄だろ、お金が

 予算関係では一般企業では起こらないようなことが本当によく起こった。単年度会計だからなんだよね、これ、と部長教授に説明してもらったが全く理解ができない。そして学内のIT予算もそう組まれていたんだな。

インフラエンジニアの本気。

 学内のありとあらゆる場所に散ったサーバやストレージ、カラフルなスパゲッティ吐き出しているかのL2スイッチ6段重ねの山(後にナイアガラと呼ばれ攻略にとても苦労することになる)や存在意味が分からないADサーバが何台もあったり(しかもドメインが別で独立している)、教授が好き勝手に機械を買って学内NWにぶっ刺したりしかもグローバルアドレス。

 滅茶苦茶カオスな状況でもあった。でも、こんな機械達を見ると萌える燃えてくるのもインフラエンジニア。さてどうしたもんかと考えていたところ、新校舎の地下に使っていない冷房がガンガンに使えて電気が引いてある物置小屋があることをタバコ仲間の警備員さん経由で知ることになる。

 大学ってのは本当にカネあるよなそんな部屋放置してるなんて無駄じゃねかそんな部屋あるならサーバをまとめておいてデータセンターぽくできるじゃんその部屋くれよすぐにさ物置っていってもどうせ誰も使ってなくて何もおいてねぇんだろいいからよこせよその部屋を。

 その部屋は2年後に学内基幹NW40G全校舎間NW10G無線接続同時2000台を収容し、学内に存在するサーバ群とストレージを全集約する仮想化基盤が鎮座するデータセンターに化け、新たに構築し認証されたISO27001を元に管理された聖域となる。
 
 でも、この時はまだ大学裏にある喫煙所でコーヒーを飲みつつ、桜が咲いてキレイだなぁと思いながら、教員、職員、警備員が集まった時のタバコの席での暇つぶしの話題、使ってない部屋も警備で深夜に巡回するんですよ、という与太話でしかなかった。


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