大学職員だった時のハナシ その3

川を渡る

 リハビリとしてIT関連部署で働くことになるが、リハビリから徐々に本稼働へと稼働強度をあげていくのであった。

仮想基盤の完成

 オッサンはインフラエンジニアである。機械さえあって、クソみたいな要件定義や誰も読まない設計書の作成といった工程を省けるのであれば、脳みそに設定は浮かんできて、あとは勝手に手が動いてしまう。
 組立からラックキッティング、仮想化基盤(VMWare)の構築、初期設定や同期調整、ストレージの冗長化、スイッチの設定やらの作業は5営業日程度で完了し、元の「大学にメシだけを食いにくるダメ職員」に戻った。
 
 メモリが1.4テラバイトも余力がある仮想基盤である。学内にある全てのサーバをここに乗せてもまだ余力がある。なんなら、メモリスペックを倍にしてもまだまだ余力がある。化け物基盤である。
 学内に散っていた野良サーバを1台ずつ丁寧に収容していく作業に入るのだが、ここでまたハードルにぶつかる。
 簡単に廃棄できない問題と、ベンダーロックの問題である。

 学校の費用で買った機器には補助金が使われていることも多く、古くなって性能が劣化したからといって簡単に捨てることが出来ない。5年間使いますと宣言をしている以上、5年間使わないといけない。
 と、言ってくる教員のために、稼働しているサーバのイメージをそのまま吸い出して仮想基盤上で再生するといった手法で移行を行う。残骸の物理機械には申し訳ないが倉庫で廃棄できるようになるまで眠ってもらう。
 スペックがあがれば文句いうヒトなんて誰もいない。

 ベンダーロックの問題は少し攻略に手間取った。
 ベンダーは大学側の仮想基盤に乗せたくない。なぜなら、サーバ更改のタイミングで機器の費用が売上で取れなくなるからだ。さらに大学側からOSも提供することになり、ベンダーの本来の仕事に戻ってもらうだけなのだが、旨味は全くなくなってしまう。外部接続できるようにベンダー専用のリモート接続システムまで提供するとなったら、各システムに存在しているリモート接続機器すら不要になってしまう。

 大学の職員さんがITに詳しいのは承知しておりますが、スキル的にメンテナンスはとても難しいですよ、なんて言ってくるベンダーもいたけれど、そのころには定年退職をしたIT派遣で鍛えられた歴戦の猛者ITに詳しい人間が傭兵臨時職員として数名加わって盤石の体制になっており、仮想基盤に乗らないシステムなら他の製品を使うなんてワードが出てくるようになると、さすがにしぶっていたベンダーやメーカーも折れた。

ベンダー城の陥落

 このあたりに目途が立つと、次は各建屋に存在するADサーバをどうやって統合していくかということが課題になってくる。各建屋にADサーバがあるのはそれぞれのメーカー、ベンダーが自分たちの城、領域を主張するためのものらしい。実際に少し中を見てみたけれど、なるほど、ドメインをそうやって使うことで他のベンダーの参入をはじいているワケね。

 内部DNSに色々と書き込んであり、ドメインサーバじゃないと名前解決で使えないんです、とかいうベンダーもいたが、SRVレコードを山盛りにした自前のDNSサーバを仮想基盤上に用意してLDAP連携を実装し始めるとこちらがどの程度の能力があるかを悟ったベンダーはすぐに降伏してくれた。こちらもこんなもの実装したいわけじゃない。
 ADサーバはカネがかかるから減らしたいだけなんだよな。

 そうこうするとどうしても潰せないドメコン以外は全て吸収できることになり、無事、ドメコンサーバも大学側のIT管理部門のブツで運用できるようになった。使わなくなった残骸は廃棄処理ができる日まで倉庫で眠る。

 そうやって、大学のIT管轄部門が徐々に学内を整理していき不要なものを削除し、必要なものは低価格で大学が提供をするという体制が整い始め、サーバが欲しいというリクエストがあがれば数時間で供給できる、といった速度でオペレーションが回るようになる。QAのサポートに取れる時間も増え、良くわからないベンダーの会議も減った。

 ベンダー提案も営業が出してきそうな「雰囲気資料」が出てくることは無くなり、最初から「ガチ目」のものが出ててきて、議論が深まった。ベンダーを排除したいワケではない。できることは自分たちで、できないことはお願いするというスタンスである。
 当然、お願いするものもあり、やって欲しいこともある。
 出入りするベンダーやメーカーも変わった。モノを売りたいベンダーは立ち位置がなくなって、コトを売りたいベンダーはよく来るようになった。

 例えば、オッサンは放送法で非常に苦しんだことがある。
 オンライン学習システムで利用される著作物の著作権は、文教向けの場合、大学構内で配信した場合、法放送でどのような影響があり、考慮するべきかのレポートが必要だったんだけれど、こんなものを書けるわけがなくてさすがにベンダーにお願いした。ガイドラインは存在しているのは知っているが、これをまともに守ることができるのは放送大学ぐらいなんじゃないかって具合だったんだけれど、ベンダーと協力して勉強をすることで、実装に目途が立ち構築導入をしたシステムもある。

虎の尾を踏む

 一気に改革が進み絶大な成果を出したオッサンたちは大学から金一封と賞状を貰うことになり、盛大にお祝いをされたのだが、ここが頂点だったと思う。

オッサンは「ネタ枠」ではなく「ガチ枠」

成果を出すということは、それまでは成果が出ていなかったとこの裏返しになり、それ以前はダメだったということになる。

 つまり、オッサンたちが成果を出せば出すほど、前任者の評価が下がる。
 その前任者が権力を持ったプライドの高いエライヒトだった場合。

 ほとんどの場合、結末はとても面白くないものになる。
 そして、オッサンたちのチームの結末も面白くないものになった。

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