見出し画像

山奥に子どもの意思と体験が尊重される学校がある

映画「夢見る小学校」で取り上げられている「きのくに子どもの村学園(和歌山県)」へ見学に行き、創設者の堀真一郎さんのお話をお聞きしました。授業の様子から垣間見えた子どもと大人、子どもと子ども同士の関係性や、体験学習に込められた想いなど、「子どもが楽しめる学校」に大切なことをたくさん学ばせていただきました。

《学校の概要》
・1992年4月 小学校開校(現在は中学校、国際高等専修学校も併設)
・在校生は小学生110名、中学生70名、高校生70名
・学園が運営する他校も含めると生徒数は720名

この道、あってますか?

最寄駅はJR橋本駅。見学メンバーを車に乗せて、ナビが示す所要時間は20分ほど。車中で自己紹介など雑談しながら、ぐりぐりと山道を進むと曲がり角を見失い、所要時間が1時間延びる・・・。焦って、来た道を引き返し、さらに山道を突き進んで高度は徐々に上がっていく。途中、看板や歩く人などはおらず、事前に案内された目印向かってひたすら進むと駐車ポイント発見。駅から徒歩で学校まで来られた強者の方がおられましたが2時間半かかったとか・・・(堀先生曰く、行き帰りを徒歩された方は今まで一人しかないそうです笑)。多くの生徒は寮生活をしており、近郊の方はスクールバスで通学しています。よくぞ、ここを選んで学校を建てたものだというのが最初の驚きでした。

子どもたちが営む工務店

学校の施設内には、子どもたちが設計した建物や遊具がたくさんありました。パッと見た感じで、子どもが作ったものとは思えません。自分たちで何をどんな風につくるか、話し合いながら形にしていかれたというのですから驚くばかりです。

いつ頃できたものかわかりませんが、大人が複数名登っても大丈夫な強度でした
壁面のデザインが可愛らしい
見学者も子ども心に戻ってすべり台(途中、急角度あり)
学校内の壁には子どもたちの工務店で作った作品が記されていました

一人ひとりが尊重される会議

見学に伺った時間帯はちょうどプロジェクトをどう進めるかを議論する会議でした。「実験工房」「劇団」「ファーム」「おもしろ料理店」などプロジェクトごとに名前の書かれた部屋で今後の活動について話し合っている場面のようです。外から見学者が来ることに子どもたちは慣れているのか、多くの大人が入っても、さほど気にすることなく会議は進んでいきます。

印象的なのは「議長」は子どもがします。議長の選出自体もみんなで決めるので、「議長する人〜」「書記する人〜」と呼びかけがあると、「ハイハイ!!」とバンバン手が挙がるのです。一つの部屋には、職員が2名ずつくらい入っていますが、特に指示をするわけでなく、議論がフェアに進められるように時折、発問をされているようでした。

意欲的に発言はしていますが、ちゃんと挙手し、議長が指名をしてから発言をする規律がしっかりしています。その中で、「時間ないからはよ決めよ〜や〜」という声が上がっても、「〇〇ちゃん、どうしたい?」となんとなく周りの意見で決めるのではなく、意見を示した本人が納得しているか、その場にいる子ども同士が気にかけ、確認する場面もありました。学年はおそらくバラバラで低学年から高学年まで一緒の部屋で同じ議論に参加しています。

ふと、その時に私の頭に浮かんだのは、我が子が小学校入学時にふと口にした「学校って、大人が全部決めるんだよね」という言葉でした(昨晩、そのことを話したら本人は忘れていました笑)。通っていた保育園は子どもたちの自主性を重んじており、さまざまなイベントで子どもたちの意思を確認しながら、子どもたちの意見をベースに物事を決めていたこととの違いを感じたのでしょう。

一般的に学校では、何を、どう決めるかまですべて大人が設定して、議論の流れもコントロールし、場合によっては結論さえ決めてしまうかもしれません。

◉学園の基本方針
私たちは、どの子にも、感情、知性、人間関係のいずれの面でも自由な子どもに育ってほしいと願っています。そのため、次の3つの点を大切に考えています。

■自己決定の原則 子どもがいろいろなことを決めます。
学習計画や行事の立案が子どもと大人の話し合いで決まります。自分の入るクラスが選べます。クラスミーティング、寮のミーティング、そして全校集会など、話し合いのとても多い学校です。

■個性化の原則 一人ひとりの違いや興味が大事にされます。
個性や個人差を尊重します。年齢が同じだからといって、同じことを同じ方法で、同じペースで、同じ答えに向かって学習するのではありません。ひろい範囲のさまざまな学習や活動が選べます。

■体験学習の原則 直接体験や実際生活が学習の中心になっています。
本やドリルの勉強よりも、実際に作ったり調べたりする活動が重視され、「プロジェクト」と呼ばれて時間割の半分を占めています。クラスはプロジェクトのテーマによってつくられ、子どもは好きなところを選んで所属します。

きのくに子どもの村学園ホームページ

掲げられている理念が、子どもたちの姿を通して実践されていることに感動しました。

広がっていく新たな教育のあり方

特徴ある教育をされていますが、きのくに子どもの村学園は学校法人として認可されているいわゆる「一条校」となります。30年以上前に、よくぞこの先進的な取り組みが認められたものだと、見学者一同驚きを隠せませんでした。入学希望者は後を立たず、南アルプスの校舎は定員20名のところに90名が殺到しているとのことです。

学校設立のきっかけは、とあるアンケートで「学校の授業が楽しい」と答えた生徒の割合がわずか2%であったことに驚愕し、同じ想いを持つ方々と楽しいと思える学校をつくろうと思い立たれたとのこと。しかしながら、学校をつくるには土地も、建物も、お金も・・・さまざまな準備をしなければなりません。その一つ一つを8年かけて実行されたそうです。

今では、職員の4分の3を卒業生、保護者(もしくは元保護者)が占める状態にあるとのこと。それゆえに、理念に忠実に子どもたちが学ぶ環境が守られているのだと実感しました。

日本国内にある学校拠点を移動し続ける堀先生の愛車パジェロ(現在2台目での合計)での走行距離はなんと200万km(地球50周分?)。原動力は、「子どもたちに会うこと」だそうです。

堀先生のことは書籍や講演の映像は拝見してましたが、間近で直接お話しされるご様子からは、教育学への造詣の深さと信念、子どもたちへの愛情、場を和ませてくださるユーモアが素敵で、多くの方を惹きつける魅力をお持ちだと実感しました。直接お会いできたこと、そしてきのくに子どもの村学園の子どもたちを見ることができたことは、大きな財産になりました。

私も私のやり方で、子どもたちが人生を楽しめる社会を創りたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?