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一口に「ID」と言っても意外と深いIDを考える

こんにちは。

マーケティング視点で読解力を高めるノートでは、小さくてもファンを増やす仕組みと仕掛けがわかると題し、デジタルネイティブ時代の情報発信を主たるテーマとし、中小企業や個人事業主がオンラインチャネルを活用する際の前提となる、情報接触態様の変化を読み解き、IDやSNS、そして口コミを科学して理解するノートをお届けしてまいります。

第1章 デジタルネイティブ時代の情報接触
第2章 知らぬままに置いてけぼりになるリスク
第3章 生活者理解のために必要ないくつかのこと
(1)一口に「ID」と言っても意外と深いIDを考える

第4章 口コミが生まれる、広がる、その理由を科学
第5章 ファンを作るために必要なことはひとつだけ
第6章 オリジナリティとどこにもないストーリー
第7章 ファンを増やす、共感を得る仕組みと仕掛け


1.生活者(顧客)理解の処方箋

第2章では、「知らぬ間に置いてきぼりになるリスク」をテーマとして、世の中の「当たり前だと思っていたことは、いつの間にか当たり前ではなくなっている」ことに、気づかず、対応が遅れてしまうことで、事前に想定したとおりの結果が得らえない、というGAPが発生する原因について、読み解いてまいりました。

本章では、自社のブランドや商品の主たるターゲットの情報接触態様の変化を把握し、自社のマーケティング活動を変化に合わせて適合させる場合の処方箋と言える「ID」に着目し、IDの持つ機能や役割、そしてIDの特性を理解していきたいと思います。

実は、一口に「ID」と申し上げても、その種類や意味合い、機能や用途は多岐に渡り、なかなか一言でその役目を説明するのは難しいことだったりします。その一端を申し上げると、例えば、皆さんの身近に「ID」という名称が付いているものが、どれくらい存在しているでしょうか?

携帯電話の番号や、マイナンバーカードの個人番号、メールアドレス、Twitterのアカウント、公的年金番号、免許証の番号やパスポートの旅券番号といったその存在を認識できるものはもちろんのこと、ご本人は認識はしていないが、実は「ID」の役割を果たしているものまで、恐らく、あれもID、これもIDと、数を勘定していただいた場合、両手では足りない数の「ID」に囲まれて、生活をしているはずです。

それでは、生活者の行動や志向、ライフスタイルを含めた変化を理解するにあたり、なぜ「ID」が活躍するのか、「ID」が顧客理解の処方箋たる理由について、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

処方箋

まず、考えるべきは、私たちが取り扱っているブランドの愛好者、好感を抱いてくださっている方はどういう方で、最終的に商品をお買い上げ頂いた方のお顔が思い浮かぶかどうか、という点です。

最終的にお買い上げいただいたお客様のことを理解しようとすると、何らかの形でお客様一人ひとりを判別する必要があります。私がお仕事でご一緒する方たちに「それは顔が見えていない状態ですね!」と、ご説明する状態は、お客様のことを判別できていない状態を指しています。

例えば、今日お買い上げいただいたお客様は、「新規」にいらした方でしょうか?あるいは、二度、三度お買い上げいただいたことがある方でしょうか?商品をお買い上げいただいた後、商品に対する印象や好感度はどのように変化し、ブランドや商品対して抱いている気持ちはファンと呼べるものか、あるいは次回はもう買わないかな、というネガティブな印象を持たれているのか、このような顧客理解をするためには、お客様のことを判別し、顔が見える状態を作る必要があります。

また、令和時代に入り、デジタルネイティブ世代が、商品やサービスの購入を意思決定するまでの経路は複雑になっており、情報を取得する手段は多様化している点をご紹介いたしましたが、デジタルネイティブ世代は「#」ハッシュタグを駆使して、必要な情報を手繰り寄せ、最終的に商品の購入やサービスの利用に至ることが分かっています。

商品のご購入に至る過程で、お客様がどのようなタッチポイントで商品を認知し、評価を聞いて、試してみようと心が動いたのか、その過程を理解しようとすれば、やはり、お客様を判別する、あるいは特定する必要が生じます。

商品のご紹介ページがあるとすれば、「いつ」アクセスをしてくださったのか、「何回」訪ねてきてくださったのか、ご覧頂く前に、どのタッチポイントを辿っていらっしゃったか、もちろん、対面でのご紹介や口コミといった情報伝達の経路も考えられますが、デジタルネイティブの主たる情報入手手段だけを取り上げても、お客様の顔が見えるようにするには、何らかの形でお客様を判別する手段が必要になることを、お分かりいただけるのではないでしょうか?

実は、本ノートの主テーマは「小さくてもファンを増やす仕組みと仕掛け」としておりますが、サブテーマとして「顧客理解」を掲げております。そのため、本章では、顧客理解を進めるための処方箋として「顧客識別をする」=「IDを活用する」というテーマのもと、この後、順をおって「ID」について科学してまいりたいと思います。

2.令和時代のIDが持つ4つの機能と役割


前項では、お客様の顔が見えていない状態についてご紹介し、お客様を判別するための機能として「ID」が持つ顧客識別の機能について、ご説明いたしましたが、令和時代の「IDが」が持つ機能と役割は、顧客識別のみに留まりません。

本項では、IDが持つ機能と役割をご紹介しながら、デジタルネイティブ時代に「小さくてもファンを増やす仕組みと仕掛け」を考えていく際、IDはどのような場面で活躍するのかを、ひも解いてみたいと思います。IDの機能と役割を、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

4つの機能

まず1つ目の機能が「認証(特定)」です。最終的に商品をご購入いただくチャネルがオンラインでECサイトの場合、サービスを利用するタイミングで、IDとパスワードを入力することで、利用者である私が何者かという情報を事業者側に示す(引き渡す)ことになります。前項でご紹介した「顔が見えない」という問題点をクリアする機能です。

また、最近では、オンラインとオフラインの垣根が消滅し、一つの顧客体験で貫かれるアフターデジタル社会が間もなく到来すると言われていますが、最終的に商品をご購入される場所が、オフラインの店頭であっても、オンラインと同様に、お買い上げいただいた方のIDをお預かりすることで、識別することが求められます。

例えば、お店が発行するポイントカードやスタンプカードといったカードはお客様を識別するために発行されているものであり、小売店の中には、会員証をデジタル化し、スマホの画面内に会員証のバーコードを表示させ、読み取ることで、認証を行っている企業もありますが、店頭やEC、いずれであっても、最終的にお買い上げいただいた方が、誰なのかを識別することが顧客理解の第1歩になります。

2つ目の機能が「接続(連結)」です。今日の生活者は日々のスケジュールや気分、利用シーンで商品を購入するチャネルの使い分けを行う他、様々なタッチポイントで情報に触れ、評価を行います。この際、各タッチポイントやメディアを運営する会社と、商品を販売する企業や事業者が同じ場合は、各タッチポイントの利用者が同じ方であると判別できますが、第2章でご紹介した通り、多くの場合、SNSの運営会社と、キュレーションサイトの運営会社と、ECのモールを運営している企業は別であるため、それぞれのSNSやWEBサイトのアクセス者は、全部が別の人として管理されてしまっているのが実情です。

そのため、事業者を跨るタッチポイントでの接触者と最終的にお買い上げいただいた方が同じ人であると認識するためには、異なる事業者が発行したID同士を接続、連結する必要が出てまいります。

例えば、企業の商品紹介WEBサイトにアクセスした方、企業のブランド別のオウンドサイトの会員登録をされてファンとしてみなされている方、Youtubeの動画広告をご覧になった方がいらっしゃって、どの順番で接点を持ち、情報に触れたのか、どのメディアが最終購買に対する影響を発揮したのかを、評価するために、それぞれのアクセス履歴(Cookie)を紐づけて、広告出稿効果を判定するといった取り組みは、ID同士を接続、連結することで行われている活動だと理解できます。

3つ目の機能が「管理(保管)」です。管理機能には2つの意味があり、1つは、お客様に関する情報、履歴をIDに紐づけて管理することを指しています。今までの来店回数や、サイトへの訪問回数やお買い上げいただいた商品の種類や個数、金額といったデータを、IDに紐づけて集計することで、だんだんとお客様の顔が明確になり、顧客理解が進んでいきます。

もう1つの機能は、お客様に対してECや店頭に関わらず、「ID」を発行した場合に取得するデータの利用目的を明示して、同意を頂いた「許諾内容」を管理するという役割があります。ご登録頂いたメールアドレスに、アンケートの協力依頼をお送りしても差し支えないか、あるいは、Lineアカウントのお友達登録をしていただいたとすれば、新商品以外のキャンペーンのご案内をお届けしてよいか等、IDを発行したお客様一人ひとりとのお約束を遵守するために、許諾頂いた内容を、管理するという役割を負っています。


最後に4つ目の機能が「宛先(送付)」です。Googleアカウント(Gmail)で情報をお届けするのか、あるいは、Lineのお友達登録をしていただきLineIDをコミュニケーションの宛先とするのか、はたまた、アプリをダウンロードしてくださった方にPUSH通知をお届けするのか、その手段は様々ではありますが、自社の商品やサービスに関する情報を直接お知らせすること、そして、宛先であるお客様を通じ、さらにその先にいるお客様のフォロワーへも、ソーシャルネットワークを通じて、共有、拡散して、伝播していくという現代の情報伝達の特徴を考えると、最も重要な機能だと言えるかもしれません。

3.デジタルネイティブ世代を理解するにはシングルID


前項では、デジタルネイティブ世代が、最終的な商品の購買に至るまでに様々なタッチポイントを経由しているとして、各ポイントにあたるメディアの運営事業者が、それぞれ別の人だとして認識している実態を解消する一つの方法論として、管理をしているID同士を「接続(連結)」している事例をご紹介いたしましたが、世の中にある情報入手手段やメディアの数は非常に多く多様化している為、すべての情報接触を特定することは難しいことだと思います。

そこで、デジタルネイティブ世代の情報接触態様と、購買意思決定プロセスを前提として考えた場合に、この先、重要性が増していく「シングルID」についてご説明したいと思います。シングルIDの特徴を、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

シングルID

「シングルID」は、会員登録やなんらかのサービスの契約時に発行されたユニークなIDを指しています。例えばですが、携帯電話やスマートホンの機種を変更したりしても、IDの番号や文字列は変更されることなく維持される一意のIDを指しております。

また、単なるログイン用のIDに位置づけは留まらず、一つのIDに他のIDを従え、全てのデータを結合していくという特徴を持つIDです。

例えば、携帯電話番号は、機種変更をしても携帯電話の番号自体は変わるものではないのですが、他社のサービスを利用するときに、携帯電話番号を入力すると、ログインできる、といった機能は持ち合わせていないため、ここで申し上げるシングルIDではありません。

Googelが発行する、Googelアカウント(Gmailのアドレス)はどうでしょうか?スマホを変更しても、ノートPCを変更しても、アカウントは変わりません。また、Googelのアカウントを使えば会員登録時に入力が少なく済むというWEBサイトやECのサービスが存在し、場合によっては、Googelのアカウントを入力すれば、情報登録自体が不要である場合がありますが、これは、GoogelのアカウントであるIDに、他のWEBサイトのログインIDが紐づけられて管理されていますので、シングルIDと呼べそうです。

デジタルネイティブ時代は、消費者の情報接触から購買に至るまでの道筋が多様で複雑になっているため、このようなシングルIDを活用することで、異なるタッチポイントや接触するチャネルを超えて、お客様を確かに一人の同じ人であると認識することができる可能性が高まります。

令和時代のマーケティングでは、SNSやWEBサイト、オウンドメディアへの接触、ディスプレイ広告や動画視聴等、購買に至るまでの過程にあるタッチポイントでの行動をトラッキングすることで、顧客理解を進めていくという方法に光が当たるだろうと、考えています。

また、シングルIDには、「正確な属性情報」が紐づいているため、シングルID用いたお客様の識別ができれば、従来より、お客様の顔がよりクリアに分見えてくるようになるのですが、この説明は次節 お客様の顔が見えない問題を解決する、で改めてご説明を差し上げいたいと思います。

第3章(1)一口に「ID」と言っても意外と深いIDを考える、では、デジタルネイティブ世代の行動や、顧客理解の前提となるIDを取り上げ、顔が見えない状況を解消するための処方箋として、IDの機能や役割について考えてみました。

次回は、第3章(2)お客様の顔が見えない問題を解決する、として、IDの種類やIDごとの利用方法をご紹介し、あわせてファンを増やす仕組みを念頭に置いた場合、どのようなIDの活用法があるのか、大手のコンビニが取り組んでいる顧客情報の活用からヒントを得ていきたいと思います。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

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