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やっぱりQRコード決済は主役でない理由

こんにちは。

マーケティング視点で読解力を高めるノートでは8回にわたり、アフターデジタルの社会とOMOについて読み解いたことをおすそ分けします。
第3回は「やっぱりQRコード決済は主役でない理由」になります。


【記事化予定】

アフターデジタル社会とOMOを読解するノート
-なんでこのタイミングでQRコード決済-

No.1 OMOプラットフォーマーの定義
No.2 日本におけるキャッシュレス決済の見通し
NO.3 やっぱりQRコード決済は主役でない理由
No.4 誰もが目指す一つのゴールAlipayモデル
No.5 QRコード決済の競争が過熱してしまう事情
No.6 皆がAlipayみたいになれない理由のいくつか
No.7 OMOプラットフォームの必要十分条件
No.8 マーケティング視点でOMOを読解した結果 


1.モバイルコンタクトレス対QRコード決済

10月に入ってから、二度ほど、自宅から会社まで財布を持たずに通勤してしまい、あっけにとられてしまった者です。10月に入る直前、生まれて初めてモバイルsuicaの登録を行い、定期もモバイルsuicaへ移行したことが原因でした。

最寄り駅の改札を通り、ホームの自販機でサントリー伊右衛門の特茶を買い、会社に向かうすがらで、コメダ珈琲に立ち寄り、早めの昼食を取り、しばし会社で仕事をしていたのですが、喉が渇き、ペットボトルの水を買おうとした17時になるまで、財布がカバンに入っていないことに気づきませんでした。

会社の自動販売機がsuica非対応だったため、小銭を取りに席へ戻り、ようやく財布を家に忘れて会社に来てしまったことを認識しました。ここまでお財布を意識する機会が減るのもんか、キャッシュレスってのはこういうことなんだなーと妙に感心してしまいました。

当日は19時から会食があり、支払いは私がする予定でした。お財布がないため、手持ちの現金がなく、キャッシュカードを持たず、当然普段使っているクレジットカードも手元ありませんでしたので、会食場所にお電話を差し上げ、「支払いはsuicaでできるものですか?」と尋ねてみましたが、suicaは対応していないとのこと。止む無く同僚に現金をお借りするはめになりました(その節はありがとうございました!)

JRの乗車や定期の支払いでも2%還元という威力に目がくらみ、モバイルsuica生活を始めたのですが、モバイルsuicaを利用し始める前は、こんなにもお財布をカバンから出さずに生活ができるようになると思っていませんでしたので、改めてキャッシュレスの利便性と生活への浸透度を知る良い機会になりました。

さて、タイトルにも、モバイルコンタクトレスと書きましたが、最近になってその威力を身をもって体感したモバイルsuicaや、ドコモのブランドであるiD、そしてJCBのブランド規格であるQUICPayをはじめ、ApplePay、GoogelPayといった非接触タイプのキャッシュレス手段は、かってドコモが普及に力を注いだおサイフケータイの時代から日本において一定程度普及しており、QRコード決済がもてはやされる以前からキャッシュレス手段として市民権を得ていたものだと考えています。

一方、数多くの事業者が新たにQRコード決済を担ぎ、我先にとキャッシュレス市場へ参入したことから、キャッシュレス支払い手段は、大部分がQRコード決済に収れんしていくのではないか、という予想をされたり、期待をされている方も多いかと思います。

そこで、2020年度~2023年度にかけ、日本のキャッシュレス市場におけるモバイルコンタクトレス決済とQRコード決済がどのような割合で普及拡大していくものか、市場調査の結果をもとに読み解いてみたいと思います。

まず、調査会社のICT総研が発表した「2019年度 モバイルキャッシュレス決済の市場動向調査」では、2018年度に約1.1兆円だったモバイル電子マネー・QR/バーコード決済額が、20年度に2.9兆円規模に成長するという予測を立てています。

この調査の中で、いわゆるモバイルコンタクトレスの決済手段である、楽天EdyやSuica、iDといった電子マネーとQRコード決済の内訳をみると、20年度の2.9兆円のうち、1.4兆円がモバイルコンタクトレス、1.5兆円がPayPay、RPay、LinePay、d払いといったQRコード決済の取扱高ではないかという予測が示されています。

2020年度については、分母のモバイルキャッシュレスに占める割合として、モバイルコンタクトレス対QRコード決済は、ほぼ1対1という見立てであることがわかりました。

続いて、以下の図表は、2023年度に、モバイルコンタクトレスとQRコード決済の比率がどうなるか、矢野経済研究所「2018年版 世界キャッシュレス決済市場の実態と将来予測」の資料を基に簡素化して整理したものです。

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矢野経済研究所の将来予測によれば、2023年度のモバイルキャッシュレスはQRコード決済の取扱高「1」に対し、モバイルコンタクトレスの取扱高が「3」という見通しになっており、20年度のQRコード決済「1」対モバイルコンタクトレス「1」の均衡状態から、モバイルコンタクトレスを選択する人が増加するのではないか、と予測していることがわかりました。

また、suica、nanaco、Waonといった非接触IC決済は、モバイルではなくプラスチックのICカードで多く使われており、モバイルへ移行せずに継続利用するユーザーも多数いらっしゃるでしょうし、今後は、Vizaが推進する非接触のクレジットカードであるVisaタッチや、マスターカードが発行するMastercardコンタクトレスなど、日本においても、現行クレジットカードの更新タイミングで非接触型カードへの切り替えが進むとみられており、キャッシュレス手段におけるQRコード決済は、いくつもある手段のうちの一つ、という域を超えられず、主たる決済手段というポジションを確保するには、なかなかに力不足な存在と言えるのではないでしょうか。

2.QRコード決済を普及させる大変さ(二重負担)

前項ではモバイルキャッシュレス市場について、利用者の手段選択の見通しから読み解いてみましたが、続いては、QRコード決済を提供する事業者の視点から、この支払い手段を普及させる際の難しさを考えてみたいと思います。

上記のノートでもご紹介しておりますが、QRコード決済を提供する理由の一つとして、有効なIDの取得が挙げられます。例えば、コンビニエンスストアが自社でQRコード決済を始め、チェーン利用者に対し便利な決済手段を提供することで囲い込みを図るとともに、次なるビジネスを構想し、実現せしめるために、有効な会員IDを取得せねばならない、という事情に迫られたケースで考えてみます。

コンビニエンスストアには、毎日1千万人以上の方が来店されると言いながらも、その方たちに会員登録を行っていただき、IDを発行し、正確な属性情報や口座情報を登録してもらうという作業は、かなり骨の折れる作業になります。

例えば、コンビニの会員登録者向けのアプリを開発し、Appleストアや、GooglePlayからダウンロードしてもらうこと自体が手間ですし、スマホに慣れていない方向けのサポートにかかる稼働も発生します。そして会員登録をしてもらうためには、顧客体験やお得なサービスの設計が不可欠であり、会員IDを発行し、パスワードを設定の上、必要事項をひとつひとつ登録してもらい、有効なIDとしてアクティベートするには、膨大な労力とコストがかかることが明白です。これは単に会員IDを取得するという意味で発生する第1の壁だと考えられます。

2つ目に、QRコード決済サービスを自チェーンで利用してもらうためには、数あるキャッシュレス手段の中から、店頭で自社のPayを選択してもらうという壁を乗り越える必要があるということです。利用者からしてみれば、わざわざコンビニが提供するQRコード決済を利用せずとも、別のコンビニやチェーンで利用している普段使いのQRコード決済アプリがインストールされているかもしれませんし、たまたま今月は、他のQRコード決済を利用すると、20%キャッシュバックといったお得なキャンペーン期間中かもしれません。

20%還元キャンペーンや100億還元など、苛烈な競争の最中にあって、赤字を厭わず利用促進を行っている大手の決済事業者と伍して、自チェーンのQRコード決済を選択させようとすれば、否応なしに何らかの経済特典を利用者にアピールする必要があるでしょう。

すなわち、利用特典として決済額に応じたキャッシュバックボーナスを付与したり、メーカー協賛のクーポンをプレゼントする等、あの手この手で、自社のQRコード決済を選択してもらえるよう、コストをかけて決済トランザクションを確保することになります。

QRコード決済を自チェーンで提供する際の第1の壁は、有効な会員IDの登録のための対価及びコスト負担。第2の壁は、有効な会員IDベースのQRコード決済を継続して使ってもらうためのインセンティブ負担であり、自社決済に寄せるために、継続してコストをかけ続ける構造に陥ってしまいます。

ここで考えないといけないことが、なぜQRコード決済を使ってもらうためにここまで費用をかけないといけないのか、ということです。その答えは、シンプルで、QRコード決済は、素の状態の「顧客価値」に乏しい、利用者からみた「魅力」に欠けるからだと言わざるを得ません。

QRコード決済は顧客価値に乏しい、という事実が垣間見える発表がLine株式会社の2019年12月期第3四半期決算発表の中にありましたのでご紹介したいと思います。

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上記の図表の中からわかることは、
1つ目に、LinePayはマーケティング費用として第2四半期に97億円を計上し、「300億」キャンペーンや「Payトク」キャンペーン等を展開することで、490万人の月間アクティブユーザーを獲得したという事実。

2つ目に、第3四半期はキャンペーン展開を大幅に縮小し、販促費を8億円まで絞り込んで費用の効率化を図ったところ、約200万人が離脱し、月間アクティブユーザーは一気に286万人まで急落してしまったという結果です。

このLinePayの事例から読み解けることは、現在のQRコード決済は、「何からの経済的メリット」があって、はじめて使われるサービスであるということでしょう。利用者からしてみれば、決済サービスとして不便がある、または魅力に欠けるため、事業者から提供されるインセンティブが、その不便さを補って余りあるメリットとして提供されない限り、支払い手段選択時の優先順位を上げない、というのが現況のようです。

先ほど事例で申し上げたコンビニチェーンでも、大手のQRコード決済事業者であっても、QRコード決済は、何もなく素の状態で提供されている限り、利用者から選択されることは少なく、選択される場合、最も大きい理由は事業者による「還元」であり「キャンペーン」の有無及びその規模や多寡だと認識して差し支えなさそうです。

現在のQRコード決済を普及させる、あるいは、自社のQRコード決済に寄せるには、継続してカンフル剤を投下し続けないないといけない状況にあり、この状況が継続する限り、持続的な事業として永続させること自体が難しく、今後はQRコード決済事業から退く企業が増えてくるのではないかと考えられます。

今回は日本のキャッシュレスにおいて、QRコード決済が主役になれなそうな理由について考えてみました。

次回はNo.4 誰もが目指す一つのゴールAlipayモデル
として、QRコード決済事業者やOMOモデルを志向するプラットフォーマーの目指すマネタイズモデルである、「Alipayモデル」について、そのビジネス構造を読解したいと思います。

宜しければ、-なんでこのタイミングでQRコード決済-
No.2 日本におけるキャッシュレス決済の見通し、も併せてご覧ください。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

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