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海外大進学を視野に入れた教育の最大の壁

このnoteは、2023年10月31日の Voicy「【教育の明日をよむ】knockout の10分キャッチアップ」の配信内容をもとに作成したものです

はじめに

今回の内容は、前回の続きとなっています。もし前回記事をご覧になってないようでしたら、先に読んでもらった方がつながりがわかりやすいかもしれません。一応、下記にリンクを置いておきます。


前回のふりかえりと今回の内容

前回は、開成のような超進学校が海外大学への直接進学を視野に入れはじめましたよ、という話でした。

今回は、そうしたムーブメントが今後広がっていくと(というよりも、まさに今、広がりつつある段階だと私は認識しているのですが)、どのようなことが起きるのか、起きつつあるのかを確認していきたいと思います。


全然違う、日本と海外の大学入試

よく言われるように、日本の大学入試と海外の大学入試で問われる能力はけっこう違います

ちなみに、あらかじめお断りしておきますと、ここで言うところの「海外の大学」というのは、今回話題となった開成が東大と天秤にかけるような、ハーバードやイェール、スタンフォードといったアメリカのトップ大学をイメージしていただけるといいかなと思います。

世界には、いろんな国、いろんな大学があり、当然、大学入試も様々です。一口に「海外の大学」とくくるのには無理があります。一旦、アメリカのトップ大学を頭にイメージして読んでもらえると助かります。

話を元に戻します。

日本の大学入試がどのようなものであるかについては、皆さんよくご存知でしょう。難関大と言われる大学ほど、ペーパー試験の本番での点数がものをいう一般型選抜の割合が高くなっています。同時に、それを測る指標である偏差値が「学力」として重視されています。

それに対して海外の大学はどうかというと、海外でも「学力」は当然見ます。見るのですけれども、何で見るかというと、主に学校の成績です。追加で AP(Advanced Placement) と呼ばれるプログラムを受講し、学校の成績だけではなく、発展的な学力もあることを証明したりもします。

日本の共通テストと同じ位置付けにあたる統一試験もあることはあります。SATACT と呼ばれるテストです。しかし近年、この統一試験の重要度がやや落ちていると言われています。大学によっては提出が不要あるいは任意になっているのです。

そしてもう1つ、最重要ポイントと考えられているのが、エッセイです。自分の生い立ちや経験、それらをベースとした意欲や強み。そしてその意欲や強みを大学の学びの中でどう発揮したいのか、社会にどう活かしていけるのか。こういった「ラーニング・ストーリー」を志望動機に仕立てたものがエッセイです。

さらに、そのエッセイを裏打ちするような様々な課外活動。このあたりが重視されるのが海外(アメリカ)の入試になっています。


日米の「学力観」の違い

読んでお分かりの通り、日米の大学入試のあり方といいますか、「学力観」は大きく異なっています。

したがって、日本でトップレベルの高校にいるからといって、海外の大学入試でも通用するかというと、これは必ずしもイコールにはなっていません。ただし、開成をはじめとした国内の優秀層であれば、早めに準備をはじめれば、乗り越えられない壁ではないと私としては思っています。

中高一貫校にいる生徒の場合、途中で高校受験が挟まりませんので、その分、まとまった時間を準備に充てることができます。本人の意欲と目標設定がしっかりとなされていれば、日米の学力観の違い、あるいは、実践的な英語力を身につけるのも、6年間という時間を武器に対応することは十分に可能だと考えます。


最大の壁「資金調達」

では何が最大の壁になっているのか。これはもう間違いなく「資金調達」です。

ここ数年、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアといった英語圏の大学は学費や寮費、生活費が異常に高騰しています。

その要因は、世界的なインフレが起きていたり、為替が円安になっていたりと複合的ですが、結果として、ここ数年で海外の大学で年間にかかる費用は以前の1.5倍、下手をすると2倍ぐらいになっているのではないでしょうか。

アメリカの場合、大学が独自の奨学金システムを持っていて、資金が足りない人を支援する金銭支援プログラムがあったり、 優秀な学生向けの給付型奨学金もあったりします。ただし、みんながみんなもらえるわけではありませんし(そもそも留学生も対象となる奨学金は少ないです)、もらえた場合も額が十分なものとは限らないのが実情です。


日本の大型財団や国による留学支援

そこで期待されるのが、日本国内の奨学金です。有力な奨学金財団から大型奨学金の給付を受けて海外進学をするルートです。

「柳井正財団 海外奨学金プログラム」「孫正義育英財団」「江副記念リクルート財団」、そして、昨年新たにできた「笹川平和財団スカラシップ」。こうした財団が、大型支援系の財団として有名です。

ただし、これら財団による支援も、定員をすべて足したところで100名を少し超える程度。これから広がっていく海外進学ムーブメントを全部受け止めれるかというと、受け止められません。今現在でも、倍率はすでに十数倍とも数十倍とも言われています。

国としても、若者を海外に送り出していこうという姿勢は見せています。日本学生支援機構(JASSO)には海外留学支援制度があり、「学部学位取得型」という、高校卒業後、直接海外大へ進学をする学生を支援する制度があります。昨年は78名が給付を受けています。

しかし、大型支援の財団に比べると、支援額は半額、あるいは、それ以下となってしまいます。この支援だけで進学しようとするのは、かなり厳しいのは間違いないでしょう。


令和版遣唐使の現実味

余談ではありますが、開成の柳沢前校長先生が最近メディア等でさかんに提唱している考えがあります。それが「令和版遣唐使」です。

内容はというと、海外の大学に直接進学する生徒を1000名規模に拡大にしましょう。その1000名に対し、1人あたり年間350万円の給付型奨学金を支給しましょう。4年で卒業と考えると、必要な資金は350万円×4年=1400万円。対象者が1000名なので、年間に必要な予算は140億円でいけるんじゃないか、というものです。

対象となる1000名は、留学先をアメリカに限定するのではなく、世界中のいろんな大学に派遣する。そうすれば、派遣先国の言語のみならず、文化や歴史など、異文化交流に必要な諸々を身につけた人材が育つ。そうした人材が日本に帰ってきてくれたり、あるいは現地に残ってくれたりすることによって、その後の国際交流や外交交渉にも活かせるのではないか。そんなお考えです。

もしこれが実現したら、すごく良い制度だろうなと思います。ただ、このお考えを柳沢先生が提唱しはじめた頃は、アメリカの大学は、学費と寮費と生活費を合わせて年間700万円程度で収まっていた時期なのではないかと思います。

だからこそ、その半額である350万円を国が負担し、残り半分の350万円を覚悟をもって自分で用意するという考え方だったのでしょう。しかしながら、今や、アメリカの大学は学費と寮費と生活費を合わせたら年間700万円では全然足りません。おそらく、1000万円~1200万円、最近は円安の進行もありますので、もっと高いかもしれません。

つまり、国の予算として考えていた額も、当時の倍近くになってしまいます。国の予算編成は当然円でなされるでしょうから、為替や現地のインフレを念頭に入れて予算を組む難しさがある制度だと感じます。


高いハードルの前と後

日米の学力観の違いを超えて海外大学から合格を得て、さらに、資金調達の壁も乗り越える。そこまで到達するのも一苦労なのは、おわかりいただけたのではないでしょうか。

無事に海外大学に進学した後も、はたして、現地の学び暮らす環境に馴染んでいけるのか。もし一定額を自費で負担した場合、その資金を回収する目途は立つのか。さらには、海外の大学を卒業した後に、その国で働き、生活するためのビザを手にすることができるのか。リスクを考えはじめるとキリがありませんし、本当にまだまだ険しいルートだなとも感じます。

同時に、リスクを取ってでもやってやる、飛び出していってやるという若者が増えること自体は、これは大変素晴らしいことだと思いますので、意欲があるのであれば、それが叶う環境であってほしいというのも思うところです。

そして、夢を叶える若者がいれば、夢破れる若者も出てきます。資金調達の枠が限られていることを考えるなら、今後おそらく夢破れる若者は相当数出てきます。

その時に、様々な問題が噴出するのは容易に想像がつくところで、 次回の記事では、そのあたりを予想してみたいと思います。

▼ 次回「海外進学ブームの先にくるトレンド予測」はこちら ▼


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