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マニキュアを塗った日

なんだかやらなきゃいけないことがたくさん溜まってる気がする。買ってそのまま本棚に仕舞い込んでいる本も読みたいし、この冬に着なかった服は見切りをつけてサッサと捨ててしまいたい。そろそろ歯の定期検診の時期だったはずだから予約もしておかないと。


やりたいと思ってたことと、やらなきゃいけないことの境界線がいつのまにか崩れてしまって、全部面倒に思えてくる。そういう日々を過ごしてふと振り返った時に、数ヶ月前と何も状況が変わっていないことに気がついてゾッとするのである。あれもこれも後でいいやと放り投げて、結局いつもスマホで時間を溶かす。明日こそは、と決意して朝を迎えるも、やっぱり毎日同じように流れていく。

これではだめだ。とりあえず何か手を付けなければ、と徐に本棚から1冊抜きとってみる。だけどなんだか気が乗らない。気が乗らないときにそのまま続行しても大体良いことは起きない。私は日頃から直感を大事にしたいと思っているので、それに従い素直に本を棚へ戻す。

では何から手を付ければ良いものか。再び部屋をぐるりと見回してみる。するとクリアな瓶に閉じ込められた、色とりどりの小さな物体の集まりが視界に入った。マニキュアだ。退職したら早速塗ろうと前々から用意していたものだった。普段看護師として働いていると、爪に色を乗せる楽しみはどうしても疎遠になってしまう。たまの長期休みにはまずマニキュアを塗る、というのは社会人になって身についた習慣でもあった。


よし、塗ろう。話はそれからだ。
やりたいことに「いつか」という枕詞はいらない。先延ばしにするための言い訳も、もうやめてしまおう。理由をつけて寝かせていたら、やりたかったことでさえいつのまにかただの厄介事に変貌してしまうのだ。何事にも鮮度がある。思い立ったが吉日とはよく言ったものだ。


様々な角度できらめいている指先をしばらく眺める。次は何をしようかな。時間はたっぷりある。見慣れない手元になんだかそわそわと落ち着かないがこの浮遊感を道連れに、私はようやく新しい1歩を踏み出せそうな気がしている。




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