マガジンのカバー画像

一日一鼓【12月】

31
運営しているクリエイター

記事一覧

もしこの出会いが
君にこの肉まんを渡すためのものなら
…私にとっての「お守り」を渡すためのものなら
それが意味することがこの絶望への別れなのだとしたら

肉まんの守り(…呪い?)が解ける前に聞きたいことがある。

あの時のコンビニの彼に。

「どうして、肉まんだったの?」

と。

彼にもらった肉まんを君に。

頬張りながら流す涙を見て思う。

輝きを放つ君も
もしかしたらあの頃の私と何ら変わらない
夢に迷うコドモなのかもしれない、と。

そろそろ私はこの絶望にお別れを言う頃なのかもしれない。
休憩時間の終わりを告げるかのように肉まんの香りだけが漂ってきた。

規則と期待と絶望に縛られるこの生活が
馬鹿馬鹿しくなるくらいには
いつものコンビニで
あのお兄さんに勧められた肉まんが美味しかった。

この肉まんがお守りだと思っているのは
きっと世界で私だけだと思う。

だから私は、
あの時この肉まんに救われたように
彼にお守りを渡そうと思う。

苗字しか知らない彼の
よく分からない念が込められた肉まんに触れたのは
20歳が目前に迫った冬だった。

20歳…タイムリミット。

もうダメかもしれない
疲れてしまった
楽になりたい

そんなことを考えたあの日
彼の胡散臭い肉まんを食べながら
「逃げる」という「救い」に出会った。

無自覚の不確かな言葉だった。
だから戸惑った。

肉まん、温まってますよ

その声が、いつも下を向く彼の口から出た言葉であることを理解するのに5秒の時間を要した。

元気出ますよ、この肉まん。俺念込めたんで

そう言ってのける彼の瞳は私に向けられるには勿体無いくらいに綺麗だった。

あなたはすごい
その7文字に苦しめられたあの時代。

決してすごくないことを悟り
ずっと騙されていたと人を恨んだ、時代の終局。

苦しみを自覚した彼女の口から…漏れた。

今日も新たに生まれたマメに貼る絆創膏を求めて行ったコンビニで
いつものアルバイトの彼を前に。

疲れた、と。

「また笑って魅せて」

そう願った。

深夜0時を過ぎ、魔法が解けた公園で
涙を流しながら彼は肉まんを頬張った。

彼の希望と絶望が生々しく白い息と共に漏れていくような気がした。

その全てを私が受け止めたくなった。

0時を過ぎても消えない夢の先を
彼の瞳を通して見たくなった。

嬉し涙も悔し涙も私には流せない。

だから存分に流せばいい。

その涙を、隠さないでほしい。

あの頃の私が夢見た景色をここで
私に見せつけてほしい。

その弱さも強さも
全部私が欲しかったものだから。

その涙であなたの誇りが守られるなら
たくさん泣けばいい。

だからお願い…

その涙に隠されたものが
私には見えない。

自分が立てなかった場所で何に苦しんでいるのか
私はきっと、見ようとしていない。

でも
気がつくと差し出していた。

笑みと涙でつくられた“人間らしい表情”のお陰で冷め始めた肉まんを。

誇りだけは忘れるな
と、そんなことを思いながら。

目の前でスポットを浴び
もっとずっと高いところで舞う彼らの背中を追っている。
いつも、いつも。

好きだ、踊ることは。

でも僕はまだ命を燃やせていない。
魅せようと踠くけれど
高すぎる壁が目の前に立ちはだかって通してくれない。

壁の壊し方を、僕は知らない。

だから、苦しい。

追えない夢を持つ人も
追わない道を選べない人もきっとこの世界にはいる。
完全に僕は後者だった。

幸いにも僕は
世界の扉を開くような
一人で踊るこの時間が好きだった。

でもなぜだろう。涙が溢れて止まらない。

今日も彼女は肉まんを持って僕を眺めている。
涙、見られちゃったかな。

「励むことができるのは君の才能だ」

救われた。

彼女のように生きてみたい、そう思った僕への
羨望をはらんだ最大限のエールだった。

彼女にとってのシンデレラストーリーが僕ならば
僕はみせなければいけない。
その先に待つ生き方を。

「魔法が解けたら」

それが合言葉となった。

才能が全てじゃない世界、だからこそ才能が重宝される世界。
ずっと高いところにいる大多数の背中を追って走った。

励むしかないと思い知らされた公演があった。
僕がこの「夢」に取り憑かれた公演。

それは羨望と共に枕を濡らす日々の始まりでもあった。

でも夜の公園で僕は言われたんだ。

大人の女性がこんな自分に興味を持つなんて。

でも

興味の正体は
彼女の瞳を見れば容易に想像がつく。

“彼女もかつてダンサーだった”

それは、確かな直感だった。
彼女が僕の目には
生き方を見つけられた人として映った。

夢に取り憑かれた僕はまだ見つけられていない、生き方を。