浮ついた冷気 もう一つの解釈

ふと足元に感じる気持ちがすっとする涼しさに目を覚ますと、
目の前にはやわらかで絹のような空気に朧げに浮かぶ愛おしい人の後ろ姿。なだらかに上下し、続いてすやすやと息遣いが耳に届く。
ぼんやりと浸りながら、自らの頬をかすめるシーツが昨日までよりもやけにさらさらと心地よく感じる。
身が清められるような爽やかな涼しさに思わず熱を求めて、愛おしいその人の隣りに近づく。
一瞬、温もりが鼻腔をとおって身体に巡る。

浮ついた冷気が心地よい。
足を絡めるなどして
もっと熱を感じたいけれど、
まるで紅茶とミルクが重なり合う前のようなそんなほのかな緊張感をはらんだ空気に浸っていたくて、そのまま身を任せる

私はこの空気が愛おしい。

ふと気がついた時にはとなりに眠っていたその人はもう起きていて、
浮ついていた冷気はもう宵闇へと帰っていっていた。

またあの愛おしい瞬間に会いたいなあ。

⭐️
9月。一時的に実家に帰っているのですが、
眠る場所がないので数十年ぶりに布団を二枚横に敷き、母と一緒に寝ました。
明け方、かけていた布ははだけていて、涼しさに目を覚ましました。
もう朝方はだいぶ涼しくなってきました。
まるで紅茶のような、爽やかさと根底にある芳醇さ。この空気の心地よさを私は知っています。

昔は家族で川の字で寝ていて、休日の朝に1人だけ目を覚ますと、よくこの空気に浸っていました。きっと昼間になったらガチャガチャ騒がしいんだろうな。密かに楽しみにしながらけれど今はこの静けさを味わいたい。
そんなドキドキした気持ちをもっていたりしました。

となりを見るとまだ母はねむっていて、背中が寝息とともにまるでその人の鼓動を表すかのように緩やかに上下しています。

もう少し近づきたい。でも近づいたらなくなってしまいそうで私はこの妙に心地よい緊張感に身を委ねながら目を瞑ります。

気がついた時にはもうあの空気は鳴りを潜めて、ガチャガチャとした喧騒が私のもとにおとずれました。

まるで幻想を見ているようでしたが、秋は確実に近づいているのでしょう。
それはまだみぬ世界への景色がひらける前触れのようで、私を心地よい気持ちにさせてくれました。

おしまい

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