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IPPON女子グランプリの話

2022年6月25日(土)放送
まっちゃんねる IPPON女子グランプリの感想です。

参加者が女性のみのIPPONグランプリを開催すると聞いて、視聴前にまず思ったのは、「女性縛り」よりも、「男女問わない芸人以外のタレント縛り」にした方が、皆が気楽に楽しく見られるのではないかということでした。「IPPON女子グランプリ」というタイトルから漂う何とも言えない違和感としんどさ。そんな負のイメージは「大喜利は性別に左右されない競技である」という自分の認識から生まれたものだと思います。

これが罷り通ってしまえば、本家のIPPONグランプリが「IPPON男子グランプリ」であると大会自ら認めてしまうことにもなりかねないし、番組冒頭でこれまでの大会における女性参加者の少なさについて触れていましたが、それには「番組側が呼んでいないだけなのでは?」と思わず突っ込みを入れたくなってしまいました。
審査についても、通常回のプレイヤー同士で採点しあう方式では無く、進行役である松本、バカリズム、川島、大悟の4名のみで執り行うと言うもので、実力的に誰も文句のつけようのないメンバーではあるものの、番組の見え方として、まるで「男性芸人>女性芸人」という上下関係が前提であるかのように捉えられてもおかしくない構図となっていました。

そんな一連のもやもやした気持ち、また、SNSで炎上したり、ジェンダー論を語る上での悪しき例になってしまわないかなど、様々な不安要素が増幅して、ちょっと見るのを控えておこうかな…と思うぐらい気持ちが落ち込んでしまっていたのですが、結局のところ、あれやこれや考えたのが杞憂に感じられるほど、番組自体は普通に楽しむことが出来てしまいました。それは、企画の良し悪しはさておいて、そんな諸々のしがらみを忘れさせてくれるぐらい、純粋にプレイヤー達の大喜利が面白かったからです。

大喜利の内容は詳しくここには書きませんが、各自見せ場がある良い内容だったと思います。
芸人パートではハリセンボンはるかがその才能を遺憾無く発揮。加納、イワクラ、福田も流石な回答を出していたかと思いますが、はるかが頭一つ抜けた結果となりました。
個人的に期待していたタレントパートも自由奔放に銘々が回答を繰り出し、非常に見応えのある展開に。渋谷凪咲、王林、滝沢カレンの無垢を装った大喜利巧者たちの回答はどれも素晴らしかったし、中でも好きだったのは神田愛花の本流から少しズレた、「一般人が大喜利大会に迷い込んだ感じ」でした。
決勝を除いて、芸人とタレントを同じパートで闘わせなかったのは、並び立てばどうしても不利になりやすい芸人側への配慮もあったかと思います。個人的には両者入り乱れた、ある種残酷な画も見てみたかったのですが、実際その状況となった決勝でも、きっちり実力を見せつけて優勝をもぎ取るはるかは本当に格好良かったです。

そもそも同番組の前回の企画「女子メンタル」であったり、女性参加者の割合を意図的に高めた「ドキュメンタル 6」など、松本人志が携わった番組の中には、お笑い競技の中において「女性」をピックアップする試みが幾度かなされてきました。やり方に賛否が分かれる部分だとは思いますが、その動機としては純粋に「女性芸人が活躍しやすい環境をつくりたい」という、ただそれだけなんだと思います。

日本のお笑いが圧倒的に男性社会であることは間違いありません。皮肉なことにダウンタウンの芸風と活躍が、その風潮を色濃くしたという側面もあるでしょう。適材適所でキャスティングしても、母数を考えれば本家のIPPONグランプリが男性ばかりになってしまうのは、ある意味仕方の無いことなのかもしれません。一つの番組としてショーアップさせる為にはまず面白く無ければなりませんし、見かけだけ男女同数にすることを優先するがあまり「面白いから」より「女性である」ことを理由としてキャスティングするようなことがあればそれこそ本末転倒で、全方位に差別的な行為だと思います。

厳然として存在する芸人人口の男女比の問題は、一番組が解決出来るようなものではありません。しかし才能のある女性芸人が、ただ居ながらにしてアウェイの空気を感じたり、やりにくさを覚えてしまうようなことは回避したい。その一つの解として考えられたのが、「実験的番組」という枠組みの中で、あえて先に「女性」を掲げる大会を開催することだったのかもしれません。そのように堂々とパッケージングしてしまうことで、参加者、並びに視聴者の違和感を無くし、更に脇に手練れを配置することで、皆が安心して見られる番組づくりを目指したのだと思います。

女流棋士制度なんかにも通ずるのかもしれませんが、色々言われるのは覚悟の上で、それでもお笑い文化の向上の為に「やった方が良い」という判断に至ったのか否か。その志の有無が番組の本当の評価に繋がるべきだと思いますし、事実、中身については面白かったので、賛否両論あれど、ただ単純にお笑いとしてだけ見れば番組は成功したと言えてしまうのかもしれません。

最後まで番組を見た上で、改めて問題点を挙げるとするならば、最初にも指摘しましたが、煽り文句とは言え、番組側が女性芸人のIPPONグランプリの参加率を取り上げて「女性は大喜利が苦手なのか?」などと言った演出を入れたこと。あなた方が言っては駄目でしょうということですね。マッチポンプというか、ただ傲慢に感じてしまいました。
あと、お題の題材が少し「女性」に寄り過ぎていたようにも感じました。最初のお題も下着売場がテーマでしたし、各進行役が考えてきたお題もそのテイストが強く、もっとプレーンなお題での闘いも見てみたかったなと。男性が女性にそのような大喜利を答えさせるというのは、場合によってはセクハラのように見えてしまうリスクも孕んでいます。
ただこれに関しては一概に悪い面ばかりとは言えず、プレイヤーからすると実際問題、考えやすいお題ではあったのかなとも。自虐ネタ等、とりあえず何らかの笑いに繋げやすく、番組の盛り上がり、回答の応酬を見せやすいと言った点では、大喜利的正義とは別にして、必要悪だったのかなとも思ったりはします。"ニン"が笑いの量に直結する対面型の大喜利では、自らの性別ももちろん武器になり得ますので。

こうして長々つらつらと勝手なことを書いてきた訳ですが、感想を一言でまとめると、「面白かったけれど、気になる部分は多かった。気になる部分は多かったけれど、面白かった。」です。堂々巡りの繰り返し。肯定できる部分もあれば、それってどうなの?と首を傾げたくなる部分もありました。
ただ一つ良いなと思うのは、結局印象に残っているのは、決して誰かに対する怒りなどではなく、ぼうこう爆大男であったり、話を盛る水谷豊な訳で、やはりそこは「面白い」という感情の強さたるやという感じです。
実験的番組を名乗るだけあって、まっちゃんねるという番組は毎回様々な議論を引き起こしていますが、それもこれも色んな角度からお笑いを楽しんでほしい一心からのことなのでしょう。属人的になり過ぎていると言われればそれまでですが、今あの枠で、あの規模で、あの面子を集められる芸人は、やはり松本人志しかいないと思うので。「あー面白かった」だけで終わらせず、改善すべきところは改善して、今後のバラエティ文化の発展に繋げていっていただければ、一お笑いファンとしてこれ程ありがたいことはありません。

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