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ゼノブレイド2 JRPGの夢

冒頭、企画自体に喧嘩を売るようで申し訳ないが、私は「推す」「推し」という言葉が嫌いだ。秋元康臭が強すぎる。

本来であれば、関係性というのは「自分」と「好きなもの」の二者だけで成り立つものだ。世界のどこの誰が何といったところで、たとえ世界が滅んだとしても「私」と「好きなもの」で成り立つのだ。

「推し」という言葉はそうではない。その言葉には、第三者に影響を与えようという傲慢さが組み込まれている。「推し」などというな、正直に「好き」と言え。それが私の本来のスタンスだ。

だがもし私が「推す」ものがあるとするなら、それは、明らかに過小評価されているものだ。私のようなわずかな力でも、助けになれるのではないかと思うものだ。

なればこそ、私は節を曲げてここに推そう。便乗もしよう。ひとりでも多くの人に届くようにと。

『ゼノブレイド2 』

開発:モノリスソフト 販売:任天堂のロールプレイングゲームだ。

Wikipediaによると、販売数はグローバルで173万本、日本国内で31万本。国内に限って見れば、ハーフミリオンにさえ到達していない。作品の傑作さを考えれば、それでは困るのだ。

ゼノブレイド2の魅力は、戦闘システム、ストーリー、キャラクター、そして世界だ。書いていて思ったのだが、これはRPGに於いて魅力とされる典型的なリストだ。ゼノブレイド2はそれらが全て高水準なのだ。

ゼノブレイド2の戦闘システムは、ざっくり言うとシンボルエンカウントシームレスリアルタイムコマンド戦闘だ。

まず、主人公が歩くのと同じフィールドをエネミーも歩いている。あるいは飛んでもいる。

主人公が戦闘態勢に入る、あるいはエネミーが攻撃態勢に入ることで戦闘が開始される。このとき、暗転やフィールド切り替えといった演出はなく、冒険していたのと同じフィールドで戦闘となる。走って逃げて振り切れば戦闘を終わらせることもできる。

戦闘はリアルタイムで進む。時間経過で主人公がオートアタックをする。オートアタックがヒットすると、技であるドライバーアーツのリキャストが溜まっていき、強力な攻撃を放てるようになる、というのが基本的な流れだ。ドラゴンクエストのような消費式のMPといったものはない。『ターンが自動で進むグランブルーファンタジー』という印象を私は持ったが、簡単に言えばMMORPGに近い戦闘といえば、通じる人には通じるだろうか。

パーティ編成もMMOに近いものがあり、アタッカー、ヒーラー、タンクに分かれた役割をそれぞれのキャラクターに任せて戦闘を行う。パーティにおける、戦闘に参加するドライバーは3人だ。プレイヤーが操作できるのはそのうちのひとりだが、仲間もなかなか優秀なAIをしているので頼りになる。ヒーラー、タンクが倒れれば敗北の危険性が加速度的に高まるのですぐに助け起こそう。

ここまでの記述で、ゼノブレイド2の戦闘システムがどんなジャンルに分類されるのかは分かったと思う。ここにさらにゼノブレイド2の独自性として、ゼノブレイドシリーズの伝統を洗練させたドライバーコンボ、ゼノブレイド2固有のブレイドコンボ、属性玉、チェインアタック、フルバーストという要素が噛み合って、連鎖的で中毒性のある戦闘システムとなっているのだけれど……プレイする前にそれを言われてもたぶんわからないのでここでは書かない。ただ、面白いと。

ちなみに、ここに書いた『基本的なシステム』が出揃うのは3話だ。3話までがチュートリアルと言っても過言ではない。だいたい20時間くらいかかる。買ったはいいが、冗長な戦闘が退屈で投げてしまった、という人も少なくないが、どうか3話をクリアするまでは進めて欲しい。3話までで止めるのは、確実に損をしている。

(戦闘が分からなくなった人のために、公式チュートリアルまとめへのリンクをここに貼っておく。役立てて欲しい)

ストーリーは『ボーイミーツガール×ジュブナイル』である。ジュブナイル、というのは本来は「少年期」という意味の英語で、ジュブナイルノベルでティーンエイジャー向け小説という意味で使われる。と、いうよりは、『使われていた』か。現在では概ね『ライトノベル』という言い回しに取って代わられた、10代の青少年向け作品という意味の言葉だ。平成も終わらんとする2017年に、こちらが赤面するようなそんな古臭いテーマを掲げたのがゼノブレイド2だ。

『ボーイミーツガール』には説明が要るだろうか?「少年が少女と出会う話」のことである。ここに作品名を列挙するまでもなく、ジュブナイルにおける王道である。

ゼノブレイド2は、そんな王道を掲げ、描き、描き切った。

平凡で、無力だった少年が、少女と出会い、苦難と理不尽を乗り越えて、世界を駆け抜け、ついには世界の形さえも変えてしまう。

宣言の通りに、ゼノブレイド2はボーイミーツガールだった。“そして少年は少女と出会った”。

ゼノブレイド2のストーリーの魅力はそれだけではない。

“あるとき、魔王が目覚めた。世界が危機に瀕したとき、伝説の聖剣を手にした勇者が現れ、魔王を倒し世界を救った”と、言うとベタなRPGのストーリーになると思う。これがゼノブレイド2本編において500年前の出来事として語られる『聖杯大戦』の大筋であり、世界を救った後、500年の間封印されていた伝説の聖剣こそ、主人公のレックスが出会う少女、天の聖杯ホムラなのだ。つまり、ゼノブレイド2本編は『勇者が救った後の世界』なのだ。世界を救うためにともに戦ったはずの仲間たちは、予期しない形でホムラたちの前に現れる。『英雄譚のその後』という要素をゼノブレイド2は内包しているのだ。

さらに凄いのが、ゼノブレイド2にはその500年前の『聖杯大戦』を描いた有料追加DLC『黄金の国イーラ』まであるということだ。それが本編より洗練された新規システムで、クリアまで20時間程度遊べるという、ちょっとした新作RPGレベルのしろものなのだ。

そんなストーリーが、ハイクオリティなムービーと共に展開される。発売当初のゼノブレイド2への賛辞として「今期最高のアニメ」というものがあった。ゼノブレイド2、メインストーリーにおけるムービーの長さは、13時間半である。そうなるとゲームプレイのほとんどの時間がムービーになりそう、と危惧するかもしれないが、そんなことはない。メインストーリークリアまでは、普通に進めて100時間、順調に進めば60時間程度かかる。

百聞は一見にしかずだ。少々ずるいかもしれないが第一話「出会い」のムービーがYouTubeにあるのでそれをここに載せよう。ゼノブレイド2のムービーの凄さが分かってもらえると思う。

このムービーに使われている『Counterattack』というBGMがゼノブレイド2のキメ曲とでも言うべきものであり、ストーリーの重要な局面を盛り上げる。

あとは、ボーカル付きの『Drifting souls』、個人的には『君との未来』もキメ曲だと思っている。

(このPVのBGMが『Drifting souls』)

激アツのBGMにシンクロしたハイクオリティのムービー、そして黒地にバッとサブタイトルで締める。うん。素晴らしくアニメだ。

そして、物語を織りなすキャラクターの魅力についても語らずにはおけないだろう。

メインのキャラクターデザインを、『楽園追放』の斎藤将嗣が担当していて、非常に魅力的なデザインとなっている。特にホムラをはじめとする女性キャラクターのデザインは絶品だ。

また、敵対するテロ組織イーラのキャラクターデザインは、ファイナルファンタジーの野村哲也である。結果としてゼノブレイド2には「野村哲也デザインの白髪で仮面をつけたcv.櫻井孝宏の剣士」というキャラクターが登場し、序盤で主人公を裏切る。

声優陣も豪華で、主人公レックスを演じた下野紘をはじめとして、音響監督も兼務した千葉繁、先ほど言及した櫻井孝宏、中村悠一に石田彰、諏訪部順一、大塚明夫、津田健一、斎賀みつき、大和田仁美、早見沙織、稲田徹etc…

とくに主人公の下野紘か、ヒロインを演じた下地紫野のファンでゼノブレイド2をプレイしないのはあまりにもったいない。

主人公のレックスは、明るくて前向きな少年である。先ほど少し“平凡で無力”と書いたがそれはまあ世界レベルで見ての話だ。15歳の少年としてはレックスは大変優秀な方で、腕利きの“サルベージャー”として生計を立てている上に、故郷に仕送りまでしている。ちょっとしたモンスターとの戦闘もこなせる。ある生い立ちから、いつか世界樹の上にあるという永遠の大地『楽園』に行きたいと夢見ている。

ホムラは、そんなレックスがある引き上げ依頼で出会った少女だ。

『天の聖杯』と呼ばれる伝説のブレイド、ホムラ。その力は3つの巨神獣を沈めたという。500年の間封印されていたけれど、外見的にはレックスより少し歳上くらいの少女で故郷は楽園だという。レックスの命を救ったホムラは、自分を楽園に連れて行くようにレックスに頼む。

基本的には優しい、穏やかな性格で料理が得意。ただ、どこか秘密主義でレックスに対しても何かを隠しているようなところがある。

この2人を軸に、様々なキャラクターが登場する。仲間や、敵対するキャラクターでさえもそれぞれにそれぞれの事情を持っており、プレイヤーが愛着が持てるようになっている。敵だったキャラが散るシーンでさえ泣くくらいに。

そして、世界。

ゼノブレイド2の世界は、果てしなく広がる雲海の上を泳ぐ巨大な生物『巨神獣(アルス)』の上で人や様々な生物が生活する世界、アルストだ。巨神獣も生物である以上寿命があり、死した巨神獣は雲海の底に沈む。人が住める土地はどんどん少なくなっており、緩やかに破綻へと向かっている。だからレックスは沈まない大地、楽園を目指す。

冒険するフィールドも巨神獣の上であり、見上げると大きな鹿のような首が動いていたりする。

プレイヤーを雄大で美しい光景が広がっている。絶景ポイントから見る光景はまさに絶景だ。

フィールドは作り込まれており、メインストーリーをクリアするだけなら一切関係ないエリアが膨大に存在し、それらにはそれらを生かすクエストや、ユニークモンスターが存在したりする。

と、まあここまでゼノブレイド2の魅力を長々と語ってきたが、私は何かを語るときにメリットだけを語る人間を信用しない。ここからは少しだけ、ゼノブレイド2の短所の話もしようと思う。

ゼノブレイド2ほど賛否両論のゲームもそう多くはないと思う。『減点法なら赤点だが、加点法なら5000兆点』という評価は、プレイヤーとしてもふさわしいと思う。

最大の難点は『ブレイドガチャ』だ。ゼノブレイド2ではパートナーでありブキであるブレイドを、コアクリスタルというアイテムでランダム入手で仲間にすることができる。スマホゲームで見慣れた、ガチャそのものである。

ブレイドは大別すると2種類があって、ほぼ同じような外見のコモンブレイドと、固有の外見と性能を持つレアブレイドがいる。

レアブレイドは、それぞれ有名なキャラクターデザイナーがデザインし、水瀬いのり、宮野真守、平野綾、その他メインキャラに負けない豪華声優が起用されている。しかもそれぞれにムービー付きのイベントまで用意されている。なんと、ゼノサーガからKOS-MOSまでゲスト出演している。

しかし、入手方法はガチャだ。最後までKOS-MOSを引けなかったというプレイヤーも少なくはない。また、引くキャラを決めてガチャをするので、ロールと噛み合わないキャラを引くと困ることになる。加えてブレイドを所持できる枠には限りがあり、レアブレイドをコンプリートするためにはたくさんのコモンブレイドを捨てることになる。この点はブレイドとの絆を強調するストーリーと衝突している。

また、UIも洗練されていない。

画面上に表示されるミニマップは見づらい、メニューボタンが+ボタンに割り当てられている、チュートリアルは文字で説明するだけで読み返せない、ゲーム内通貨でチュートリアルを買う必要がある……などなど。

あと、ストーリーに軽度のセクシャル、あるいはセクハラ描写が含まれる。CERO Cかつ青少年向けなので仕方ない範囲かと思われるが、不快な人には不快のようだ。そこまでの量はないし、4話を超えればもうほとんどないから、それまで耐えて欲しい。そういった点も含めて、ストーリーに古臭さを感じる人もいるようだ。

3話までチュートリアルといったように、システムが解放されるスピードが遅い。序盤は戦闘を退屈に感じるかもしれない。

フィールドは作り込まれているが、その分道に迷いやすい。目的地に対するコンパスはあるが、役に立たないことも少なくはない。

傭兵団派遣はプレイ中じゃないと時間が進まない。

あるキャラの強化には本編関係ないレトロシューティングミニゲームをプレイする必要がある。

登場人物の1人が難民を侮蔑した発言をする。

ナナコオリフラジオレットがんばります

……まあ、他にもいろいろ。

総評すると、ゼノブレイド2はあの頃JRPGが見た夢の形だと私は思う。

壮大なフィールドを駆け回り、同じフィールドで戦闘する。単体で映像作品として成立するようなムービーでストーリーが進む。本編の前日譚までプレイすることができる。そして王道のストーリー。

JRPGの最高傑作のひとつだ。ぜひプレイしてほしい。

なお、ニンテンドーカタログチケットを使えば実質5000円で購入することが可能だ。シリーズ第1作のリマスター版である『ゼノブレイド ディフィニティブエディション』もニンテンドーSwitch向けに発売されている。2本セット1万円で買うのがおすすめだ。ゼノブレイド2は2ではあるが、ゼノブレイドの続きの話ではなく、全く別の世界の話なのでそれだけでプレイしても問題はない。

これだけ言葉を尽くしても、ゼノブレイド2の魅力のほんの一部も語れなかったように思う。いや、語り尽くせないことこそゼノブレイド2の魅力なのかもしれない。できればあなたがプレイして、ゼノブレイド2の本物の魅力を直接受け取ってもらえるよう、私は願っている。


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