20240426

 コーマック・マッカーシー『すべての美しい馬』(黒原敏行訳、早川書房)を読んだ。全米図書賞、全米批評家協会賞を受賞した代表作。ジョン・グレイディ少年の成長と親友と馬との旅、美しい娘との恋愛など王道の物語を詩的な表現と素朴な会話で、哲学や宗教など普遍的テーマを内包した小説に昇華した傑作と言っていいだろう。
 アメリカ南部やメキシコとの国境付近を舞台に暴力や不条理を描き続けたゆえ、フォークナーの後継者とも言われた。南北戦争後の没落した南部の風景や黒人奴隷の問題を描いたのが彼なら、マッカーシーは戦中、戦後の南部と先住民やナショナリズムの問題を描いている。今作でも冒頭で日本の捕虜収容所でおそらく鬱になった父とジョンの関係が描かれており、最後は父の不在のまま彼の死が読者に知らされる。フォークナーの作品は絶対的父の存在がキーになるが、マッカーシーは逆に父の不在によってその存在の大きさを描いている点が現代的であろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?