20221210

 快晴で暖かい一日だった。絶好の行楽日和だが、念のためコンロの取り換え業者を待つためにアマプラでクリストファー・ノーランの『ダンケルク』を鑑賞した。第二次大戦時にフランスのダンケルクの海岸に追い詰められた英仏連合軍約四〇万人を救出すべく、民間の船舶までもが協力して制空権を失ったかの地へ命がけで向かう様子を描く。ノーラン監督作は『メメント』から観ていて、バットマンのダークナイトで虜になった。初期の頃から徹底して彼は時間の流れを意図的に逆にしたり、圧縮したり、助長したりしてストーリーを組み立てている。この形はとても小説的だなと思う。ジョイスの『ユリシーズ』は三日の出来事をあれだけ助長して描いているし、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』は百年という膨大な時間をあの一冊に圧縮している。それは言語芸術としては有効であるが、映像として表現するのはいささか不利な気がする。なぜなら、観客は自分のペースでなく、一定の速度で映像が流れていくことに逆らえないからだ。彼の試みとして成功したのは『インターステラー』であろう。あれは時間だけでなく、空間を飛び越えたからだ。そこには観客の想像力が喚起されて、ストーリー展開を補う、つまり作品世界に没入しやすい。最新作の『テネット』とは逆再生という映像の強みを用いた実験的試みは評価したいが、物語として世界観がアンバランスだった。次作はカイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるピュリッツァー賞受賞作『オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』を原作とする伝記映画を制作中だという。これには期待したい。

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