20240619

 コーマック・マッカーシー『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』(黒原敏行訳、早川epi文庫)を読み終えた。コーエン兄弟による映画を観ていたし、映画自体が原作に割かし忠実に映像化されていたので大筋はあの映画の場面を思い浮かべつつ読んだ。その一方で、最後の部分は映像化では省略されていたので新たな発見があった。というか、この小説の核はむしろそこに集約されていると言ってもいいのではないか。アントン・シガーとルウェイン・モスの逃追走劇はそこにエンターテインメント要素を与えていることに間違いないし、だからこそ映画がヒットし大いに評価されたのだろう。だが、この物語の主人公は二人を追う保安官エド・トム・ベルだ。そして、二人の事件に決着がついた後にはベルによる戦争体験と父との関係が語られて、父の夢で物語は閉じられる。『すべての美しい馬』でも日本軍の捕虜となった父の存在はキーポイントになっている。ここでは、モスのベトナムでの戦争体験の影が印象深くもある。マッカーシーは戦争とそれによってねじ曲がった父性について繰り返し書いている。今作でも最後の方でそれを大いに感じた。

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