20230716

 『代わりに読む人1 創刊号』の表紙・挿画を担当されている佐貫絢郁さんが参加する横浜BankARTで開催中の「Under35/Over35 2023」展に出向いた。新高島駅構内にあるスペースで、横浜線の地下鉄を下りて、地下一階に上がると細長い一角を丸々壁で覆った展示場が目の前に現れる。この日は展示の後に行われる、保坂和志との対談「勉強の日」を観覧したのだが、その中で保坂も「現代アートらしいというか、まさか地下一階に上がってくるとは思わなかったよね」と笑っていたことが印象的だった。佐貫さんとは前夜にすれ違うような形で、挨拶もできていなかったのだが、彼女はどうも覚えてくれていたようで、凄い記憶力というか空間認識能力の高さを思った。先に凡人〔ボンドマン〕と宇留野圭というアーティストの展示をそれぞれ観賞した。凡人の粘土で作られた巨大な潜水艦を模した作品のエネルギッシュさ、宇留野圭のカエルや虫の死骸や空き瓶やひび割れたコンクリートなど死を思わせるオブジェクトと電動で動き続ける機械の組み合わさった作品から喚起される生と死のあわいなど、それぞれの世界観があった。佐貫さんの展示は『代わりに読む人1』の表紙や挿画でも見られた文字群を意味が分からなくなるまで脱色、解体したベースの上に赤や紫、青、黄色、緑などの色合いが効果的に散りばめられた絵画や、タイ在住の彼女が印象に残ったタイの街並みにあるものをオブジェクト化して配置した作品などが展示されていて、保坂と対談のきっかけにもなったという小島信夫『小説作法』(中公文庫)の表紙画の黒い墨でベタ塗された作品群とは印象の違ったものになっていた。そこにすでに保坂は来場していて、絵を鑑賞していた。彼は暖色系の派手なアロハシャツに少しダボついた麻っぽいズボンにアディダスのスタンスミスを履いていた。なんかパンらしきものをもぐもぐしながら、午後の紅茶のレモンティーのペットボトルで流し込む彼を横目に見てしまい、ちょっと笑いそうになった。そこはバーカウンターもあって飲食ができる感じではあったのだが、美術館で飲食しながら鑑賞するというのはやっぱり違和感があって、めっちゃ堂々と飲み食いする保坂を少し微笑ましく思ってしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?