20230820

 分倍河原近くの古民家を改装した、紙とデザインの店舗「kamitowa」で「書肆海と夕焼」主催の町屋良平「生きる演技」(文藝2023年秋号)の読書会。普段はアクセスしない場所に赴くというのは旅気分になれるのでたまには良い。二子玉川を大井町線で越え、溝の口で乗り換え、武蔵溝ノ口からJR南武線で玉川を越えて分倍河原で降りる。川沿いの開けた景色は解放感があり、車窓から眺めると高揚感を覚える。この日はどうやらB'zのコンサートがあるらしく、構内の階段を上った場所に「B'z→」と書かれた張り紙が見えて思わず笑ってしまった。これだけで何かを理解できるバンド名がほかにあるだろうか。改めてその偉大さを感じた。外の改札機には「B'z140円」と張り紙されていて、これではまるでB'zが140円で売られているみたいでX(旧Twitter)でも万バズしていた。
 駅出口の目の前のビル内にあるマルジナリア書店を覗き、鉄橋を渡って会場となるkamitowaへ向かった。あまりにも風景に馴染み過ぎていて見失いながら、何とかぎりぎり到着。すでに町屋さん本人含め、10名の参加者が長机を囲んで座っていた。「生きる演技」は十代の頃から芸能界入りしている笹原と生駒の二人を中心に、それぞれの家庭が持った複雑な事情で演じることを余儀なくされている対照的なようで似ている二人の語りが混濁しながらやがてクラスで「石の証言」を原作として米軍捕虜虐殺が行われた立川事件を題材とした演劇を行うまでを描いた青春ものと戦争の記憶を接続した小説。わたしは初めの方は二人の視点が混ざって読みにくかったが、中盤でそれぞれが演者として場所や空気によって語っていることを理解し、ずいぶん読みやすくなった。著者本人を前に感想や意見を述べるのは躊躇するかと思ったが、町屋さんはとても大らかというか、何でも聞き入れるような雰囲気があってすんなり言葉が出てきた。小説家として作家論も気さくに話してくれてとても有意義な時間を過ごせた。読書会後には、分倍河原駅の近くで食事会となり、さらに明け透けに色々な話題を話してくれてとても楽しい時間となった。また機会があれば、こうした読書会に参加したい。

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