20231111

 「文フリ東京37」が流通センターで開催された。所属する同人「破滅派」は新刊「破滅派20号」を頒布した。「ロスジェネの答え合わせ」として、氷河期世代にスポットを当てた創作、年表、鼎談が掲載されている。当日の発表では、1800を超えるブースが出店する過去最大の規模で一万二〇〇〇人の来場者数があったという。わたしは朝起きて、設営に参加された同人たちのポストをRPしつつ早くも宣伝で盛り上がるTLを眺めた。過去の経験から気になるブース全ては回れないし、予算的にも買えないと判断した。それで、絶対に行きたいブースを文フリのHPでマークして会場に向かった。土曜日ということで、地下鉄は混雑していた。渋谷で乗り換えて山手線で浜松町に辿り着くまで、旅のお供に君島大空の『no pubulic sounds』を聴きながら、リディア・デイヴィス『話の終わり』(岸本佐知子訳、白水Uブックス)を読み進めた。『話の終わり』は中盤まで進んでくると、彼女の小説論的展開が深まってきて非常に刺激的な内容に読み進める手が止まらず、危うく乗り過ごすところだった。「文藝春秋」のトートバックを持った男性が目に留まり、彼もきっと同じ目的地に向かっているのだと思いながらイヤポッドを取り外してポケットにしまった。浜松町からモノレールに乗り換えて流通センターへ。ここまで来ると完全に同じ目的地へと向かう人たちで各停の車両は混雑していた(手前には大井競馬場もあり、そこで降りる人も結構いる)。ふだん見慣れない、東京湾遠景を望むモノレールの車窓を眺めるのも一興だが今回はリディア・デイヴィスの文章に夢中だった。アフォリズム(断章)を重ねながら別れた十二歳年下の元彼へと送る小説を書く「私」は、彼との思い出の記憶を辿りつつ書くということについて思考を巡らす。
 流通センターで吐き出された大勢の乗客に紛れて外に出る。雲の多い空模様で肌寒いくらいだった。わたしが予めチェックしていたブースは第二展示場に集中していたので正面を右手に曲がって第二展示場に入った。入口で時間帯によってA、B、C、Dと色分けされた入場シールを受け取って(わたしは三時前に入場したので紫色のCだった)そのまま二階へのエスカレーターを上った。絶対に欲しかった文芸誌「棕櫚10」を買いにマルカフェ文藝社のブースに。すごい人混みで周りのブースをゆっくり見れずに、ただひたすら目的地に向かって進んだ。吉田棒一氏ときさめさん(a.k.a冬乃くじ)がブースに居て、挨拶を交わし購入。すでに残り十冊をきっていて、なんとか間に合った。さらに吉田棒一氏の「Twitter」も。隣接するブース新潟SFアンソロジー作成委員会では「Laid-Back SF 20世紀SFトリビュート」を買った。小林猫太さんとげんなりさんに挨拶。他の購入客が来たのでそそくさと出口に向かった。途中、マルカフェのマスター(a.k.a枚方天)と偶然出くわし、佐々木敦が頒布していた「保坂和志(仮)」をお使い頼んで二冊持っているという話を聞き、もう売り切れているかもしれないと思って彼から購入した。さらに出口付近のスペースで「書肆 海と夕焼」店主の柳沼さんに遭遇。野間文芸新人賞を獲った朝比奈秋と九段理江について話したりした。彼と別れ、一階の薄禍企画ブースで「ひとひら怪談(町)」を買った。ひとまず欲しいものは買ったので、破滅派ブースのある第一展示場に入った。第二展示場の倍はあるスペースで広いだけに込み具合は第二展示場ほどでなかった。中央あたり、M-25、26には同人たちが何人か集まっていた。挨拶を交わし、献本をもらってもう一冊購入した。店番をやろうと申し出たが、皆すでに会場を回ったということで第一展示場を見回ることにした。わたしが寄稿している『代わりに読む人1創刊号』を販売する「代わりに読む人」ブースで主宰の友田とんさんに挨拶して、一冊「破滅派20号」を献本した。そこへ同じ寄稿者の伊藤螺子さんが来られて三人で談笑していると、小山田浩子さんが現れて友田さんに紹介してもらって挨拶ができた。黄緑のヘキサゴンフレームが印象的な眼鏡を思わず「いい眼鏡ですね」と言うと、地元広島の眼鏡屋に勤めていたこと、そこで購入したブランドものであることを明かしてくれた。身に着けているものに物語があるあたり、さすがだなと感心した。最後の三〇分くらいブースに座って店番をした。わずかな時間でも、いろんな人たちが新刊を手に取って購入してくれた。一七時になると来場者数が一万二千人を超えたアナウンスがあり、会場の人々が拍手して文フリは幕を閉じる。ブースを片付け、打ち上げを浅草橋近くのコワーキングスペースでおこなった。最新刊についてそれぞれの所感を述べて、ロスジェネについて昔話に花を咲かせた。次回からは有料化、一二月には東京ビックサイトに会場を移しての開催となる。思った以上に膨らむ出展者数、来場者数にお祭り的な盛り上がりは感じるが、これが出版業界の盛り上がりには直接つながっていないことは今後の課題だろう。

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