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ストレスに対するマインドセットを変えてみる


そもそもストレスとは?


ストレスは、「物体に圧力を加えることで生じるゆがみ」を意味する物理学の用語でしたが、1936年、カナダの生理学者ハンス・セリエが、「ストレス学説」を発表したことから、初めて医学・生理学的な意味でストレスが用いられるようになりました。そして現代では、精神的・肉体的に負担となるあらゆる環境刺激によって引き起こされる生体機能の変化(ストレス反応)を指すようになりました。また、外部からの刺激や要因のことをストレッサーと言います。

ストレスを受けた時に起きる反応は,心理面、身体面、行動面の3 つの方向に表れるとされていますが、最もよく見られる心理的ストレス反応は、抑うつと不安です。それ以外にも、怒りや緊張、気持ちの切り替え能力の低下、健康感・幸福感の喪失、自己効力感や自尊心の低下が見られます。身体面では、入眠障害や中途覚醒などの不眠、腰痛や肩こり、めまいや動悸、下痢や便秘など多岐にわたります。そして、行動面では、酒量の増加、遅刻・欠勤の増加、仕事のミスなどに表れます。これらの心身からのアラートに、日々の生活の中で早めに気づき、こまめに取り除くことが大切です。

次に、ストレスの評価とストレスコーピングに関する研究を紹介します。


ストレスの評価とストレスコーピング


日常生活の中でストレスにさらされた時に、私たちはどのようなことを考え、行動するのでしょうか。アメリカの心理学者リチャード・ラザルスらが提唱した「心理学的ストレスモデル」によると、人はストレスにさらされると、2段階の評価をします。

まず第1段階では、そのストレスがどのくらい自分にとって害をもたらすか、そして、脅威となるか、という評価を行います。この時に、不安、怒り、イライラなどのネガティブな情動が喚起されます。次に第2段階では、そのストレスを軽減する方向でコントロールできるかどうか、という評価を行います。

そして、この2つの認知的評価の結果、ストレスの要因を解決するために、または、心理的な負担を減らすために、ストレスの原因にうまく対処しようとするのですが、これを「ストレスコーピング」といいます。

ストレスコーピングは、問題焦点コーピング情動焦点コーピングに分けられます。問題焦点コーピングとは、ストレッサーそのものに働きかけて、それ自体を変化させて解決を目指します。例えば、対人関係がストレッサーの場合、相手に直接働きかけて問題を解決しようとします。しかし、そう簡単にストレッサーそのものを変えられないことも多々あります。その場合、ストレッサーそのものに働きかけるのではなく、それに対する自分の考え方や感じ方を変えることで、ストレスの軽減を行ないます。これを情動焦点コーピングといいます。

ここまでやや学術的な話になってしまいましたが、最後に、今回最もお伝えしたかった、ストレスに対するマインドセットを変えることで、ストレスを有効に活用できることを示す研究を紹介します。


ストレスに対するマインドセット


ストレスは身体に悪い、ストレスは避けるべきだ、というマインドセット(考え方)は一般的だと思いますが、このマインドセットを変えることで、ストレスが有用なものになる可能性があることを、アメリカのイェール大学のアリア・J・クラム博士らが明らかにしました。

この研究では、388人のビジネスパーソンを3つのグループに分け、それぞれのグループに内容の異なる3分間のビデオを数日おきに、計3種類見せることで、ストレスに対するマインドセットを操作しました。

1つ目のグループは、「ストレスは自分を強くしてくれる」というマインドセットに、2つ目のグループは、「ストレスは自分を消耗させる」というマインドセットに操作され、3つ目のグループ(統制群)は、どちらのマインドセットにも操作されませんでした。その後、参加者は全員、気分や不安に関する質問や、仕事のパフォーマンスに関する質問に回答しました。

分析の結果、「ストレスは自分を強くしてくれる」というマインドセットになったグループは、そうでないグループよりも、気分や不安、そして、仕事のパフォーマンスに関するスコアが全て上回っていました。

また、同じ研究者による、63人のビジネスパーソンを対象にした別の実験では、「ストレスは自分を強くしてくれる」というマインドセットになったグループは、ストレスフルな課題(人前でのスピーチ課題)を与えられた時に、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌量が最適化されることがわかりました。つまり、コルチゾールの反応がもともと低い人は高くなり、コルチゾールの反応がもととも高い人は、抑制されたのです。

これらの実験から、ストレスに対するマインドセットを変えるだけで、ストレスを有効に活用できる可能性があることがわかりました。実験では3分程度の簡単なビデオを見て、ストレスは自分の成長に有用であることを意識しただけで、ストレスに対するマインドセットが変化しました。それぐらいのことでも、マインドセットは変わるんですね。これからは、ストレスフルな場面で、「このストレスは自分を強くしてくれるものなんだ」と自分に言い聞かせてみると良いかもしれません。


参考文献:
・Selye, H. (1936). A syndrome produced by diverse nocuous agents. Nature, 138(3479), 32-32.
・Lazarus, R. S., Folkman, S. (1984). Stress, appraisal, and coping. New York: Springer.
・Crum, A. J., Salovey, P., & Achor, S. (2013). Rethinking stress: the role of mindsets in determining the stress response. Journal of personality and social psychology, 104(4), 716.

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