見出し画像

アテンション・エコノミーの時代

アテンション ・エコノミー

 私たちは、日々の生活で、意識的あるいは無意識に、様々な対象にその注意を向けています。インターネットの発達から、スマートフォンの登場によって、私たちは膨大な情報に常に注意を払う生活に、いつの間にか引き込まれてしまったのです。そして、SNSの浸透により、私たちの注意は、ほぼリアルタイムでハイジャックされるようになりました。スマホの電源をあえて切る「デジタルデトックス」なる言葉が生まれたのは、必然の流れと言えるかもしれません。

 アメリカの社会学者マイケル・ゴールドハーバーは、インターネットの発達による情報過多の時代には、人々の「注意(アテンション)」が貴重な資源となり、経済的価値を持つ「アテンション・エコノミー」という概念を、インターネット初期の1997年に提唱しました。人の注意(アテンション )という資源は有限ですので、この有限の資源を様々な企業が奪い合う結果、「注意(アテンション )」がお金のように交換材としての価値を持つようになるという考え方です。多くのデジタルサービスで、無料あるいはフリーミアム(初めは無料だが、後に有料になる)サービスが無数に登場しているのは、私たちの注意(アテンション)が広告価値を高め、企業にお金をもたらすからです。私たちは、無料でサービスを利用する対価として、個人情報を提供している、ということはよく言われますが、実は、個人情報だけでなく、有限の注意資源を消耗しているのです。

注意資源とは?

 ビジネスではコミュニケーションが重要ですが、益々スピードが求められる時代です。特にチャットアプリの浸透により、IT系のスタートアップのみならず、多くの企業で、メールよりも多くの注意を払うことが求められています。ここで、「注意資源」という言葉について、説明したいと思います。私たちの注意力や集中力は、体力と同様、限りがあることを示しているのが、「注意資源」という考え方です。午前中は、集中力高く仕事をこなしていたのに、お昼を食べた後は、注意力が散漫になって、目の前の仕事にうまく集中できない(これを「ポストランチ・ディップ」と言います)という経験はありませんか?

 お昼を食べた後に、消化管の動きが活発になり、副交感神経が交感神経より優位になることで、身体がリラックスモードになり、眠気が生じることが原因のひとつと考えられますが、それに加え、午前中に「注意資源」を消耗してしまった可能性もあります。例えば、パソコンに向かって会議用の資料を作っていたら、緊急の電話がかかってきて、話しているうちに、チャットアプリの受信メッセージが目に入り、急ぎで打ち返して・・・、などとやっていると、「注意資源」はみるみる消耗していきます

注意資源の消耗を避ける

 有限の注意資源の消耗を避けるために、できることは色々あります。ビジネスの世界では、あれこれと色々な業務を同時にこなす、いわゆる「マルチタスク」能力が持てはやされる傾向にあります。特に、起業のような局面では、プロダクト開発の話をしながら、マーケティング戦略についても同時に考えたり、突然、キャッシュフローのことが心配になったり、スタッフのモチベーションを気にかけたりと、注意資源はあっという間に消耗します。少しでもこの注意資源の消耗を避けるためには、ひとつの業務に集中し、その時間は、他の業務のことは考えないこと、ただし、ひとつの業務にかける時間を明確に決めておき、多少切りが悪くても、予め決めた時間が来たら、別の業務に切り替えること、などのタイム・マネジメントが重要になってきます。

 それでも、注意資源の消耗は、どうしても避けられない状況は多々あります。その時は、注意資源が回復するように努めることが大事です。米ミシガン大学の心理学者スティーブン・カプラン博士は、植物を中心とした自然環境には無意識に注意が向き、精神的な疲労を軽減する効果があるという「注意回復理論」を提唱しました。オフィスの中、あるいは、在宅ワークの場合は家の中に、こもりっきりにならず、短時間でも自然に触れることが大事です。近くの公園や、少しでも緑のある環境に身を置いてみましょう。どうしても、そのような自然環境がない場合は、パソコンやスマホの画像に、緑の自然画像や動画を表示し、しばらくボーッと眺めるだけでも、注意資源の回復効果があります。これについては、別の記事で詳しく書きたいと思います。

参考文献:
・Goldhaber, M. H. (1997). The attention economy and the net. First Monday.
・Kaplan, S. (1995). The restorative benefits of nature: Toward an integrative framework. Journal of environmental psychology, 15(3), 169-182.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?