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ビジネスパーソンが抱えるストレス

 ビジネスパーソンが抱える主なストレス要因は、コロナ禍で変化があったようです。チューリッヒ生命が毎年行なっている「ビジネスパーソンが抱えるストレスに関する調査」の2017年から2021年の推移を見てみると変化がわかります(下図参照)。コロナの影響により、収入面に関するストレスが、ここ2年はトップ(2020年は「収入(経済面)」、2021年は「給与・賞与(金銭面)」が第1位)ですが、TOP5の5年間の推移をみると、必ず、「上司との人間関係」がランクインしています。コロナ前の2017年、2018年は、2年連続で「上司との人間関係」が第1位のストレス要因でしたので、これは、ビジネスパーソンが抱える不変的なストレスといえそうです。

 会社員の人は、上司を選ぶことは基本的に難しい場合が多いのではないでしょうか。私が10年お世話になったソニー(現ソニーグループ)では、当時、上司の承諾を得ずに(上司に知れずに)、部署を異動できるという画期的な社内募集制度というものがありました。これは、いわば、部下が上司を選べる制度です。このように部下にも上司を選ぶ自由があれば、ビジネスパーソンの抱えるストレスはもっと改善されるかもしれませんね。

チューリッヒ生命「ビジネスパーソンが抱えるストレスに関する調査」(2017~2021年)をもとに、
筆者作成

上司の公正さが部下の健康を左右する

 職場の上司が部下に公平に接しているかどうかは、部下の健康リスクに重大な影響を与えることが研究でわかってきています。フィンランドのヘルシンキ大学と英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者らは、35歳から55歳のロンドンで働く6,442人のイギリス人男性を対象に、職場の公正さと冠状動脈性心臓病のリスクの関係について、平均8.7年の追跡調査を行いました。職場の公正さは、(1)上司から不当な批判を受けたことがあるか、(2)上司から一貫した情報を得ることができるか、(3)上司から十分な情報を得られているか、(4)上司はあなたの悩みをよく聞いてくれるか、(5)自分の仕事を上司は褒めてくれたことがあるか、という5つの質問で評価されました。つまり、良い上司に恵まれているかということに近いですね。

 結果は、職場の公正さが高い人(つまり、良い上司に恵まれている人)は、そうでない人よりも、冠状動脈性心臓病のリスクが、約30~35%低いことがわかりました。職場の公正さが低い職場は、得てして、社員の仕事のストレスが高く、また、仕事に注いだ努力に対して、十分に報われていないという感覚が強い傾向がありますが、これらの要因の影響を除いても、職場の公正さが低いこと自体によって、冠状動脈性心臓病のリスクが高まる可能性があることが明らかになりました。

上司の良し悪しが部下の血圧に影響!

 上司の良し悪しが、部下の血圧に与える影響を調べた、イギリスの興味深い研究があります。英バッキンガムシャー・チルターンズ・ユニバーシティ・カレッジ人間科学部のN・ワグナー博士らは、2人の上司の下で働いている医療アシスタントの女性28名(18歳から45歳)を対象に、上司の良し悪しが血圧に与える影響を調査しました。実験群に割り当られた女性は、良い上司と嫌な上司の下で働いている人たちで、統制群に割り当られた女性は、良し悪しに差のない2人の上司の下で働いている人たちでした。

 結果は、嫌な上司の下で働いている日の血圧と良い上司の下で働いている日の血圧の差が、実験群は、統制群と比較して、上の血圧(収縮期血圧)で12mmHg、下の血圧(拡張期血圧)で6mmHgもありました。上の血圧が10mmHg、下の血圧が5mmHg増えると、心血管疾患および脳卒中のリスクが、それぞれ16%、38%増えるという研究もありますので、この差の重要性がわかりますね。

 そして、上司の様々な要因の中でも、特に部下の血圧の上昇に影響を与えるのが、部下に対する公正さであることがわかりました。部下に対して、タイムリーにフィードバックしたり、よくできたことを褒めること、信頼と尊敬の念を示すこと、全員に対して一貫して公平な対応をすること、一人ひとりのニーズに柔軟に対応すること、これらが部下に対する公正さを形成します。これら全てを完璧にこなせる上司はなかなかいないかもしれませんが、少なくとも、これらを心がけているかどうかは、とても大事だといえます。

参考文献:
・チューリッヒ生命「ビジネスパーソンが抱えるストレスに関する調査」(2017~2021年)
・Kivimäki, M., Ferrie, J. E., Brunner, E., Head, J., Shipley, M. J., Vahtera, J., & Marmot, M. G. (2005). Justice at work and reduced risk of coronary heart disease among employees: the Whitehall II Study. Archives of internal medicine, 165(19), 2245-2251.
・Wager, N., Fieldman, G., & Hussey, T. (2003). The effect on ambulatory blood pressure of working under favourably and unfavourably perceived supervisors. Occupational and environmental medicine, 60(7), 468-474.

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