「短歌」で小さなクリエイティビティを高め、メンタルを整える
SNSに通じる「短歌」
「短歌」がちょっとしたブームのようです。特に中高生の間で流行っているといいます。
以下、日経新聞の記事を引用してみたいと思います。
同記事では、コロナ下での閉塞感から日常が戻りつつある喜びを表現した高校生の短歌として、こんな1首が紹介されています。
ご存知のように、短歌は、5・7・5・7・7という文字制限の中で、いかに自分が伝えたいことを表現するかが勝負ですが、この一首を例にとっても、短い言葉の中に強いメッセージが込められており、その人が直面した情景が浮かび上がってきます。
ところで、なぜ今、短歌がちょっとしたブームなのでしょうか。
上述の記事によると、その背景には、SNSとの親和性があるようです。31文字という限られた文字の中で、ストレートに自分の感情を乗せ、共感を得るという行為が、SNSで投稿する感覚と重なるということのようです。また、誰からも非難されないように、表現を工夫し、推敲を重ねるという点も、SNSと似ているとのこと。
私も、その日の出来事を振り返ってみて、短歌にまとめるということを時々、実践していますが、自分の作ったものを後で見返してみると、たった31文字なのに、その時の情景を直感的に思い出すことができ、言葉の力の凄さを感じずにはいられませんし、この文字形式が人間の感情に最も訴える形式であることを見抜いた先人の知恵に敬服します。
このように先人の知恵によって生み出された短歌ですが、実は、このnoteで最も伝えたい「日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)」の実践に、短歌はぴったりです。
なぜ、短歌がクリエイティビティを高めるのかについて、次に、関連する研究をご紹介しながら説明したいと思います。
「不足」がクリエイティビティを生む
新しいアイデアは、不便や不自由な状況から生まれやすいといのは、多くの人が感じるところではないでしょうか。
実は、「不足」を思い浮かべるだけで、固定観念に囚われなくなり、クリエイティビティが高まることが、アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のラヴィ・メタ博士らの研究で明らかになっていますので、その実験内容をご紹介します。
最初の実験では、大学生の参加者を2グループに分け、1つのグループには、「お金や物がない環境で育つこと(不足)」を想像して3分間エッセイを書くように指示し、もう1つのグループには、「お金や物が豊富な環境で育つこと(豊富)」を想像して3分間エッセイを書くように指示しました。
その後、参加者全員のクリエイティビティを測定するため、ブロックで子供が喜ぶオモチャを作るように指示しました。できたブロックのオモチャは、研究の意図を知らない第三者が厳正に、その創造性(特に新規性)を評価しました。
結果は、「不足」を想像したグループの方が、創造性(新規性)のスコアが、「豊富」を想像したグループよりも、20%以上高かったのです。
また、他の5つの実験では、「不足」や「豊富」を彷彿させる画像をインターネットで検索させたり、創造性の測定では、日用品の風変わりな使用法を可能な限り挙げさせたりすることで、最初の実験結果の再現性を確かめましたが、いずれも同様の結論が得られました。
研究者らによると、「不足」を想像することで、固定観念(例えば、物の本来の機能や使い方など)に囚われなくなり、自由な発想が可能になるため、クリエイティビティが高まるとのこと。
興味深いのは、「不足」を想像したテーマと、創造性測定でのテーマは全く関係がないことです。両者に関係がなくとも、単に「不足」を思い浮かべるだけで、クリエイティビティが高まったのです。
そして、今回のテーマである短歌について考えると、短歌は31文字という文字制限があるため、盛り込みたい言葉をたくさん削らなければなりません。この時、「言葉の不足」を常に実感することになりますので、これがクリエイティビティの向上につながる可能性が高いと考えられます。
「短歌」でメンタルを整える
短歌にはメンタルを整える効果があると考えられます。例えば、1日や1週間、1ヶ月を振り返ってみて1首作成するとします。その過程で、起きた出来事や、その時の感情を簡単に書き出してみる作業を行うと、まるで日記をつけているのと同じような効果が期待できます。
悩みや不安を紙に書き出すことで、不安やストレスを軽減する方法を筆記開示といいますが、これは1980年代に、アメリカの社会心理学者ジェームス・ペネベーカーによって提唱されました。心が傷つけられた体験(トラウマ体験)について書くことによってメンタルヘルスを向上させる効果が様々な研究で報告されています。
また、アメリカのサザンメソジスト大学のローラ・A・キング博士らの研究では、1日20分、4日間、「人生の目標」について書くと、トラウマ経験について書くよりも、主観的な幸福度が高まることが明らかになっています。
このように、「書く」ことによる自己開示がメンタルヘルスの向上につながりますので、短歌や俳句にも、内容によっては類似の効果が程度期待できます。
また、「芸術療法(アートセラピー)」という領域があります。これは、絵画や、詩・俳句・短歌、写真、歌,楽器の演奏などの芸術活動を通じて、内にこもりがちな心を開放し,想像力や生命力を高め,生きる勇気や望み,楽しみを回復する方法です(百科事典マイペディア参照)。
1980年から2016年までに発表された37の厳選された研究によるアートセラピーの介入効果を調べたドイツの研究では、81%の研究で、アートセラピーや介入によるストレス軽減効果が確認できました。
以上をまとめると、短歌には、「言葉の不足」を感じることにより、クリエイティビティ(リトルC)が高まる効果が期待でき、さらに、書くという行為で自己開示につながるため、メンタルを整えてくれる効果も期待できます。
短歌を毎日作成するのは結構大変ですが、あれこれ言葉を考え、5・7・5・7・7のフォーマットにぴったりハマった時の快感は割とクセになりますので、ぜひお試しください。
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