見出し画像

心理的安全性がクリエイティビティを高める

心理的安全性とは?


心理的安全性
(psychological safety)とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも、安心して発言できる状態のことで、ハーバード・ビジネススクールの組織行動学者エイミー・エドモンドソン博士は、「チームの心理的安全性」を提唱する世界的な第一人者です。

学術的に長年研究されてきたこの概念をビジネスの世界に広めたのはグーグルです。グーグルは、社内プロジェクトで、最高のチームをつくるために必要な要因を調査した結果、この心理的安全性という概念が最も重要であるという結論に達したのです。

以下、Forbes Japanからの引用です。

2016年、ニューヨークタイムズ マガジンでグーグルの5年間にわたるプロジェクトが紹介された。「プロジェクト・アリストテレス」と名付けられたそのプロジェクトにおいて「最高のチームをつくる5つの要因のうち、最も重要なのが心理的安全性」であり、「誰がチームに居るかよりも、どのようにコラボレーションしているかの方が、チームの成果にとって重要」と発表された。

Forbes Japan.2021.09.08.https://forbesjapan.com/articles/detail/40685


心理的安全性が確保されている職場では、各メンバーは、自分の発言が、チームの他のメンバーによって拒絶されたり、罰せられたりすることはないと確信でき、自由な発想が可能になるということです。

上述のエドモンドソン博士は、複数の病院の医療チームのデータを分析し、とても興味深いデータを発見しました。それは、各チームの薬の不適切な処方の発生率と、チームの業績との関係に関するデータです。なんと、業績がトップの病院の方が、最下位の病院よりも、約10倍、薬の不適切な処方が発生していたのです。(トップの病院の発生率は約2.4%、最下位の病院は約0.23%)

この結果に驚いたエドモンドソン博士は、さらにデータを深く分析していくと、謎は解明しました。

業績が良いチームでは、何か問題が起きるとメンバーはそれを包み隠さずオープンに報告し、チームで解決策を考える雰囲気が醸成されており、チームの心理的安全性がとても高かったので、ミスの発生率が高く出たのです。一方で、業績が良くないチームは、問題をオープンにしないため、見かけ上の数字は良く見えていたのです。

この研究から、チームの心理的安全性がいかにチームのパフォーマンスに大きな影響を与えるかが伺えますが、次に、この心理的安全性が個々人のクリエイティビティにどのような影響を与えるのかを見ていきたいと思います。


心理的安全性が活力を高める


先述の通り、心理的安全性はチームのパフォーマンスを上げることがわかりましたが、どのような仕事にもそれは当てはまるのでしょうか?仕事には集中力を要するものだけでなく、クリエイティビティを要するものもありますが、そのような仕事にも心理的安全性は効果的なのでしょうか?

イスラエルのバル=イラン大学心理学・社会学部のロニット・カーク博士らは、仕事を持っている128人の社会人学生を対象に、心理的安全性がクリエイティビティに与える影響を、質問紙によって調査しました。その際、活力(Vitality)に関する質問も含めました。

クリエイティビティに関する質問は、例えば、「仕事でオリジナリティを発揮することがありますか?」や、「斬新で実行可能なアイデアを仕事で生み出しますか?」などです。

また、心理的安全性に関する質問は、例えば、「この組織のメンバーは、課題や難しい問題を提起することができますか?」や「この組織ではリスクを冒しても安全ですか?」などで、活力に関する質問は、例えば、「仕事中はポジティブなエネルギーに満ちていますか?」などです。

分析の結果、心理的安全性は、活力を高め、それによって、クリエイティビティが高まる可能性があることがわかりました。具体的には心理的安全性のスコアが1上がると、活力が約0.44高まり、活力のスコアが1上がるとクリエイティビティが約0.38高まるという関連性が示唆されたのです。

心理的安全性が高い職場では、誰もが安心して自分の意見を言うことができるので、それが仕事への活力を高め、クリエイティビティの向上につながるという好循環が生み出されるということですね。


ピクサーのクリエイティビティ・マネジメント


『トイ・ストーリー』、『モンスターズ・インク』、『ファインディング・ニモ』など数々の革新的な3Dアニメーション映画を大ヒットさせてきたハリウッドのアニメーション制作会社ピクサーは、スティーブ・ジョブズがその設立に携わり、クリエイティブな仕事環境を構築していることでも有名です。

ピクサーの実行理念の中には、

誰もが誰とでもコミュニケーションできる自由を持っていること

誰もが安全にアイデアを提案することができること

などが含まれます。

ピクサーには、このような理念を支える様々な制度がありますが、その中でも「ブレイントラスト」と呼ばれる制作中の映画の社内レビュー会議は、とても優れた仕組みになっています。

この2時間ほどの会議では、制作チームが制作中の映画を参加者(レビュアー)にお披露目するのですが、参加者からは率直な意見やアドバイスがたくさん出てきます。ただし、参加者の意見やアドバイスは「誰かを傷つけるようなものになってはならない」という明確なルールがあります。

さらに、制作チームはそこで出た意見やアドバイスを参考にしつつも、それらを聞き入れて、制作中の映画を修正するか否かは、完全に制作チームの自由意志に委ねられているのです。つまり、意見やアドバイスは有り難く頂戴しつつも、無視してしまっても何ら問題はないということですね。

この「ブレイントラスト」という会議体はピクサーのクリエイティブな企業文化を象徴するような仕組みで、ピクサーでは組織内での心理的安全性が完全に保証されているのです。ピクサーは、『トイ・ストーリー』の大ヒットで3Dアニメーションという新たな市場を切り拓いた後、ヒットを出し続けないといけないというプレッシャーと常に戦ってきました。

そのような状況の中でも、ヒット映画を絶やさずに出し続けられているのは、共同創業者のエド・キャットムルらがクリエイティビティ・マネジメントを経営の最重要課題と位置づけクリエイティブなアイデアそのものよりも、人やチームを重視し、心理的安全性が担保される環境の保全に最大の関心を払ってきたことが大きな要因と考えられます。

参考文献:
・Forbes Japan.2021.09.08.https://forbesjapan.com/articles/detail/40685
・https://www.youtube.com/watch?v=LhoLuui9gX8
・Kark, R., & Carmeli, A. (2009). Alive and creating: The mediating role of vitality and aliveness in the relationship between psychological safety and creative work involvement. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 30(6), 785-804.
・Catmull, E. (2008). How Pixar fosters collective creativity. Boston, MA: Harvard Business School Publishing.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?