日々の小さなクリエイティビティで幸福度アップ
クリエイティビティはメンタルヘルスの敵?味方?
創造性(クリエイティビティ)は一部の特異な天才だけのものであるという仮説(これを”Mad-genius Hypothesis”といいます)が根強く信奉されていましたが、この仮説に基づくと、クリエイティビティはメンタル不調につながると考えられていました。確かに、クリエイティブな職業と精神的な障害の関係について、100万人以上を対象としたスウェーデンのある研究では、クリエイティブな職業の人は、精神的な障害を患っている割合が多いことがわかっています。しかし、これをもって、クリエイティビティはメンタルヘルスの敵だというのは早計です。繊細で物事や周囲の環境に敏感な人は、観察力に優れており、また、驚きや喜びといった内発的報酬を得たいという欲求が強い傾向があり、それがクリエイティビティの高さにつながっている可能性があります。
また、クリエイティビティには、歴史に残るような斬新なアイデア(これを「ビッグC」といいます)もあれば、日々の生活の中でのちょっとした工夫や新しい問題解決の方法(これを「リトルC」といいます)も含まれます。米ノーステキサス大学のセルチュク・アカル博士らは、創造性(クリエイティビティ)と幸福度(ウェルビーイング)の関係に関する過去の26の研究結果について、システマティックレビューを行い、その関係性を明らかにしました。
その結果、日々の小さなクリエイティブな行動(リトルC)は、私たちの幸福度(ウェルビーイング)を高めるのにとても効果的であることがわかってきました。例えば、いつもと違うお店でランチをしてみたり、いつもと違うメニューを頼んでみたり、週末に作ったことのない料理を作ってみたりといった、ちょっとした創造的行動は、蓄積すると自信や達成感を高め、自己実現につながっていきます。
クリエイティビティを高める気分とは?
かの有名な物理学者アインシュタインは、「感情や憧れは、すべての人間の努力や創造物の背後にある原動力である」と言っています。感情はクリエイティビティに大きな影響を与えるということですね。オランダのアムステルダム大学心理学部のマタイス・バース博士らは、過去25年間の創造性と気分に関する103の論文をレビューし、人間の感情や気分がクリエイティビティにどのような影響を与えているかを調査しました。
その結果、研究によってばらつきはあるものの、総じて、以下のようなことがわかりました。
・ポジティブな気分はクリエイティビティを生み出しやすいが、活性度が重要である。
・ポジティブで活性度の高い、興奮や熱中の状態がクリエイティビティを生み出すのには最適である。
・ポジティブだが活性度の低いリラックス状態は、あまりクリエイティビティが高まらない。
・ネガティブな気分でも、活性度が高ければ、テーマによっては、クリエイティビティを生み出しやすい。
リラックスしている状態はクリエイティビティが高まるように思えるかもしれませんが、クリエイティビティを高めるには、活性度が高い(覚醒している)ことが重要であることがわかりました。また、興味深いことに、ネガティブな気分は創造性に対して、常に負の影響を及ぼすわけではないようです。例えば、環境や健康の問題、貧困の問題など、深刻なテーマである場合は、ネガティブな気分の方が、クリエイティビティを生み出しやすいこともわかりました。
ネガティブな気分もクリエイティビティの向上に活かす
例えば、チームメンバーがネガティブな気分の時(イライラや怒りを感じているような時)には、比較的まじめで、解決する意義の大きなテーマ、例えば、社員の健康を高めるにはどうしたら良いか、あるいは、オフィスの節電を促すにはどうしたら良いか、などについて、創造的なアイデアを出すブレストを行うと効果的かもしれません。ただし、落ち込んでいる時は、活性度が低いため、クリエイティビティは期待できません。
また、「シチュエーション・セレクション」という方法も効果的です。これは、嫌なことがあった時に、楽しいことをクリエイティブに計画して対処する方法で、くよくよした気持ちを切り替えるのに有効だと考えられています。特に、感情の起伏が激しく、感情制御が苦手な人には効果的であることが、イギリスのシェフィールド大学の研究で明らかになっています。
例えば、「嫌なことが起きたり、ネガティブな感情に襲われた時には、必ず、面白い動物の動画を1本見て、環境問題について5分間考えてみる」などということを、自分の中でルール化しておくのが鍵です。ルール化しておけば、そのような状況になった時に、自動的に思考の切り替えができるようになるだけでなく、ネガティブな気分をクリエイティビティの向上につなげることができます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?