薄暗い夜道のおじさん

会社からの帰り道、

「すっごい疲れた…すっごい疲れた…」

と口にしながら一人で歩いているおじさんとすれ違った。


酔っていたのだろうか、やや赤い顔で、でも力のない表情で下を向きながら。

誰かと電話してるのかな?という声量だが、どうやらそうでもないらしい。

ああ、本当に疲れたんだな…と思わずにはいられない声色で、何回も何回も、まるで壊れた音楽プレーヤーかのように。

最近のCMで例えるなら、トヨタ発のサブスク・KINTOのCMで松田翔太の声を繰り返し再生してしまう蓄音機のように。

ちょうどよかったからそのまま例えると、あれくらいのボリュームで。



メンタルが本当にダメになるとき、「疲れた」と言うことすらできなくなる。

その前に吐き出すことができれば気持ちも幾分マシになるし、吐き出すことで周りに気付いてもらえることもあるのだが、
本当に追い込まれると何も考えられなくなり、声を上げることすらできない。


その点では、件のおじさんは口に出せているだけよかったとも言えるのだが、とはいえ頑張るのはほどほどにね、とも思う。


そして何よりも思ったのは、

暗い夜道で、一人で大きい声出すのはやめてね、

ということ。



すっごく怖いんだから。

そんなおじさんが近付いてくるの。

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