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姉妹としてじゃなくて

私たちは血の繋がった姉妹だ。姉の名前は琴葉。妹の名前は穂乃果。

私、妹の穂乃果は、姉の琴葉に密かに恋してる。

小さい頃から、私たちは仲良しだった。私は何でも琴葉の真似をしたがった。
服や髪型もおそろいがよかったし、スキンシップも大好きだった。一緒に手を繋いだ。腕も組んだ。ハグもいっぱいした。

いつからか、そんな姉への憧れと大好きの気持ちは、恋心へと変わっていった。

琴葉と手を繋いだり、腕を組んだりすると胸がドキドキする。琴葉の笑顔を見ると嬉しくなる。
琴葉と一緒にいると、とっても幸せな気持ちになる。

だけど、それが姉に対して抱いてはいけない気持ちだとはなんとなく分かっていた。
だから私は、この想いには蓋をしている。


最近、琴葉の様子が変だ。私とあまり話したがらない。今までは目が合ったら優しく笑いかけてくれたのに、今では逸らされてしまう。手も繋いでくれない。そして時々、思い悩んでいるような表情をしている。
何か悲しいことがあったのだろうか。

「ねえ、最近どうしたの?目も合わせてくれないし、手も繋いでくれないじゃん」
「大丈夫、何もないよ」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ、あの思い詰めたような顔は何なの?」
「そんな顔してないよ。穂乃果の勘違いじゃない?」
「そう…」

「1つだけ教えてほしいことがあるんだけど、いいかな?」
「何?」
「私のことが嫌いになったとか、そういうわけじゃないんだよね?私のこと避けたりしてるけど、それは違うって信じてるから!」
「うん、大丈夫だよ」

琴葉はそうは答えてくれたものの、私のことが好きとは言ってくれなかった。私、琴葉に嫌われたのかな。琴葉の気に触れることをしちゃったのかな。布団の中で、あれこれと嫌な予感を巡らせてしまう。

「だいじょうぶ。だいじょうぶだよね」

言い聞かせるように自分にそう言い、眠りについた。


それから数日経ったある日のこと。
私は家に1人でいた。父と母は仕事。琴葉は部活。私だけが何の予定もなく、ゴロゴロしていた。テレビも見飽きてしまったし、ずっとスマホを触っているのも頭が痛くなる。おやつも食べ尽くしてしまった。

暇を持て余した私は、こっそりと琴葉の部屋に侵入した。机の上には、琴葉の日記帳が置いてあった。なるほど、いつも私が部屋に入るのを禁止されているのは、日記帳の中身を見られたくなかったからか。可愛いとこあるじゃん。

今は私しかいないし、ちょっとなら読んでみてもいいかな。とりあえず最初のページから読んでみるか。

日記の中には、私との出来事がたくさん書いてあった。

穂乃果と学校帰りにこんな話をした。穂乃果が手作りオムライスを美味しそうに頬張ってくれた。最近の穂乃果は〇〇にハマってるみたいだから、今度〇〇のぬいぐるみを買ってあげよう。などなど。

しばらく読み進めていくと、内容が少し変化していった。私のことが書かれていることには変わらないのだが、出来事というよりは、私に対する琴葉の気持ちが書かれていた。

穂乃果の笑顔が可愛くて、目を見ることができない。穂乃果にちょっとでも触れるとドキドキしてしまうから、以前のように手を繋げなくなった。一緒にいて幸せだけど苦しい。

気がつくと自分の顔が熱くなっていた。心臓がバクバク鳴っていてうるさいくらいだし、胸の奥がきゅっと締め付けられる感じがする。

昨日の日記には、こんなことが書かれていた。

『昨日、穂乃果に何かあったかと聞かれてしまった。私は穂乃果のことが好きだけれど、この気持ちを知られるわけにはいかない。だから「何もないよ」と答えたけれど、穂乃果は傷ついていないだろうか。願わくば、穂乃果も同じ気持ちでありますように。』

読んでいるうちに、涙が溢れてしまった。琴葉も私と同じ気持ちでいてくれたんだ。目から零れた涙が、ぽたぽたと紙の上に落ちる。私は慌てて日記帳を閉じ、琴葉の部屋を後にした。


夕食後、琴葉に「話がある」と呼び出された。部屋に入ると、琴葉は手に日記帳を握りしめていた。

バレた、と思った。琴葉に内緒で勝手に読んだから怒ってるんだ。

「あの、琴葉______」「穂乃果、」

謝ろうとした言葉は、琴葉の声によって掻き消された。
見ると琴葉は、目にいっぱい涙を溜めていた。

「あのね…好きなの。穂乃果のことが大好きなの。姉妹としてじゃなくて、女の子として、穂乃果のことが好きなの」

琴葉はそう言って泣き出した。
その瞬間、私の中に閉じ込めておいた感情が一気に爆発した。
もう抑えられない。
気づいたら私は、琴葉のことを抱きしめていた。

「私も…私も琴葉のこと、好きだよ。姉妹としてじゃなくて、女の子としてして琴葉のことが好き。愛してる」
「ほんと?」
「うん、琴葉のこと、愛してるよ」


私たちはその日、抱き合っていっぱい泣いた。久しぶりに同じベッドで、手を繋いで眠った。
くっついて寝るのはちょっと恥ずかしかったけど、琴葉のぬくもりが愛おしくて。思わず、琴葉の服の裾をギュッと掴んだ。

「どうしたの?」
「んー、何でもない」
「そっか。おやすみ」
「うん、おやすみ」

琴葉は片方で私の手を繋ぎながら、もう片方の手で私の頭を優しく撫でてくれた。

「琴葉、大好きだよ」
「私も、穂乃果のことが好き」

こうして私たちは、姉妹から恋人同士になった。これからどんなことがあっても、琴葉と一緒に乗り越えられる気がする。

だって、私には琴葉がいるから。