雨の日ピクニック
妹の穂乃果は落ち込んでいた。本当は今日、姉の琴葉とピクニックデートをする予定だったのだ。
それなのに…と穂乃果はまた1つため息をつく。今日の天気は雨。どうしても晴れてほしくて、昨晩は2人でたくさんてるてる坊主を作ったのに。てるてる坊主のばか。穂乃果は心の中で悪態をつきながら、カーテンレールに吊るされたてるてる坊主たちを睨んだ。
「何もそんなに落ち込むことないじゃん」
上から琴葉がひょこっと顔を出しながら言う。琴葉は今日のデートが中止になったことなんて気にも留めていないかのようだった。
「だって…今日が恋人同士になってから初めてのデートだったのに」
まだ恋人という関係に慣れていないせいか、穂乃果は少し頬を染めながら答えた。
琴葉はその様子を見ながら、「赤くなってる穂乃果も可愛いなあ」とのんきなことを考えていた。
「ねえ琴葉、この天気どうにかならない?そういう道具とか持ってない?」
「穂乃果、私はドラえもんでも神様でもないんだよ。自然のことはどうにもできない」
冷静にそう返すと、穂乃果はむうっ…と頬を膨らませてまた丸くなってしまった。こういうところが本当に可愛い。
そうは思いながらも口には出さず、琴葉はどうしたら穂乃果の機嫌が良くなるかを考えた。
「そうだ!ねえ穂乃果、おうちピクニックしない?」
「おうちピクニック…?」
「うん、窓際にシートを敷いて、雨の音を聴きながらお弁当を食べたり、ジュースを飲んだりするの。どう?」
その提案を聞いて、穂乃果は目を輝かせながら勢いよく立ち上がった。
さっきまでの不貞腐れた様子から一転、今はもう満面の笑みだ。
「やったー!するする!」
「じゃあ準備しよっか」
2人は早速お弁当作りに取り掛かった。
食べやすいサイズのサンドイッチをいくつか作る。具材はハム、チーズ、海老、アボカド、卵、きゅうり、レタス、ベーコン、トマトなどなど。2人が好きなものを好きなだけ挟んだ。
甘めでトロトロの玉子焼きと、しょっぱめでカチッとした玉子焼き。顔つきのたこさんウィンナーをコロコロたくさん。カラッと揚がった唐揚げ。ミニトマトなどの野菜も忘れずに
それらを手際良く詰めていくと、あっという間に可愛らしいお弁当が完成した。
ちょっと量が多いが、2人で食べるならこれくらいがちょうどいい。
それから、冷蔵庫に入っていたペットボトルのオレンジジュースを取り出してコップに注ぐ。
窓際に敷いたシートの上に、出来上がったばかりのお弁当とオレンジジュースが入ったコップが置かれた。これで準備は完了。
雨の音に包まれながら、2人だけのおうちピクニックが始まった。
向かい合って「いただきます」を言い、割り箸を割る。
まずはやっぱり、大好きなサンドイッチから。パクっと食べると、優しい卵と少し酸味あるトマト、シャキシャキのきゅうりがよく合う。美味しい。次に玉子焼きへ。これも絶品だ。どちらも甘過ぎずしょっぱ過ぎず、ちょうど良い。
穂乃果の方を見ると、彼女は真っ先に唐揚げに手を伸ばしていた。
そしてパクっと口に放り込むと、幸せそうな顔をして微笑んだ。
ああ、この子は本当に美味しそうに、幸せそうに食べる。穂乃果のその笑顔を見るだけで、琴葉は嬉しくなるのであった。
今度はタコさんウィンナーを口に運んでいた。これも美味しかったようで、穂乃果の顔はさらに緩んだ。
いつの間にかお弁当は全て空っぽになっていた。コップの中身も、もう残っていない。一緒に「ごちそうさま」を言った。
後片付けが終わると、穂乃果は床の上で仰向けになった。そんな彼女につられて、琴葉も寝転ぶ。自然と目が合い、どちらともなく恥ずかしそうに笑い合った。
窓から見える景色はどんよりと曇っていて暗いけれど、それでも隣にいる彼女のおかげでとても明るく見えた。
雨音だけが響く部屋の中で、穂乃果は琴葉の手をぎゅっと握った。
それに答えるように、琴葉は穂乃果の手を強く握り返した。
雨音が優しく包み込んでくれるこの空間の中で、2人の距離は少しずつ縮まっていく