『去年の冬、きみと別れ』/中村文則著

推理小説というものは一般的に、物語に於ける起承転結の結部がわかりやすいと思っている。
乱暴に言ってしまえば、大広間に関係者を集めて「この中に犯人がいます」と、探偵に宣言させれば良い。

しかし今作に於いては、そのセオリーが通用しなかった。

起承転結の結は、どこが始まりだったのだろう…? 自分が今読んでいるこの描写は、もう伏線の回収に入っているつもりで読んでいいのか、それともまだ、転部が続いているのか…読みながら私は、とても不安だった。
不可解で曖昧な狂気に満ちた世界は、物語の骨組みという流れすらも、不安定にさせていった。
それがこの作品世界に取り込まれるということだったのだと思う。

最後の一文のために、多くの方が本書を冒頭から見直しているのではないかと、想像がつくし、気持ちもわかる。
でも、その一点集中をこの本の評価とするのは、違うんじゃないかとも思う。
そこはちゃんと、注意書きが書かれているのだから、「考えるな、感じろ」ってところ。

※20160524読了

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?